本邦に密入国し外国人の新規登録申請をしていないにもかかわらず、甲名義で発行された外国人登録証明書を他から取得し、その名義で登録事項確認申請を繰り返すことにより、自らが外国人登録証明書の甲その人であるかのように装つて本邦に在留を続けていた被告人が、甲名義を用いて再入国許可申請書を作成、行使した所為は、被告人において甲という名称を永年自己の氏名として公然使用した結果、それが相当広範囲に被告人を指称するものとして定着していた場合であつても、私文書偽造、同行使罪にあたる。
被告人を指称するものとして相当広範囲に定着していた名称を用いて再入国許可申請書を作成行使した所為が私文書偽造同行使罪にあたるとされた事例
刑法159条1項,刑法161条1項
判旨
私文書偽造罪における「偽造」とは、作成名義人と作成者の人格の同一性を偽ることをいう。再入国許可申請のような公的手続で通称名を用いた場合、文書から認識される人格と作成者の実態が異なるならば、人格の同一性が欠けるものとして偽造罪が成立する。
問題の所在(論点)
社会生活上定着した通称名を用いて、公的手続である再入国許可申請書を作成した行為が、私文書偽造罪(刑法159条1項)および同行使罪(161条1項)の「偽造」にあたるか。
規範
私文書偽造罪(刑法159条1項)の本質は、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽る点にある。本名以外の名称を用いた場合であっても、文書の作成目的、用途、流通範囲、名称の特定識別機能等を総合的に検討し、名義人と作成者の間に人格の同一性が認められるか否かによって偽造の成否を判断すべきである。
重要事実
被告人は密入国した外国人であるが、25年以上にわたり、他人の実名である「A」という通称を公私の社会生活で一貫して使用し、周囲からも同名で認識されていた。被告人は、北朝鮮への出国にあたり、法務大臣宛の再入国許可申請書に「A」と記載・押印して提出した。なお、再入国許可申請は適法な在留を前提とする公的な手続である。
事件番号: 平成9(あ)1227 / 裁判年月日: 平成11年12月20日 / 結論: 棄却
虚偽の氏名等を記載した履歴書及び雇用契約書等を作成行使した行為は、たとえ自己の顔写真がはり付けられ、あるいは各文書から生ずる責任を免れようとする意思を有していなかったとしても、有印私文書偽造、同行使罪に当たる。
あてはめ
再入国許可申請書は、適法に在留する外国人が法務大臣に提出する公的な手続上の文書であり、審査にあたり申請人の地位・資格の確認が不可欠であることから、本名による作成が要求される性質を有する。本件において、文書に表示された「A」から認識される人格は「適法に在留するA」であるのに対し、作成者である被告人は「密入国し在留資格のない者」である。たとえ通称名が社会的に定着していたとしても、外国人登録上の「A」になりすましていた事実に照らせば、名義人と作成者の人格の同一性には齟齬があるといえる。
結論
被告人の行為は、本件文書の作成名義を偽り他人の名義でこれを作成したものとして、私文書偽造罪および同行使罪が成立する。
実務上の射程
通称名を用いた文書作成における偽造の成否が問題となる場面(例えば借用書や履歴書など)で、人格の同一性を論じる際の重要判例である。特に、当該文書が公的な手続や特定の身分的地位を前提とするものである場合、社会的な通称の定着度よりも、名義人の属性と作成者の実態の齟齬(属性の偽称)が重視される傾向にある。
事件番号: 昭和29(あ)1093 / 裁判年月日: 昭和31年3月6日 / 結論: 棄却
外国人登録証明書に貼付してある写真を恣に剥ぎとり、他人の写真を貼り代えた場合には、公文書偽造罪が成立する。
事件番号: 昭和56(あ)1302 / 裁判年月日: 昭和56年12月22日 / 結論: 棄却
遁刑中であることが発覚するのを恐れて義弟と同一の氏名を使用して生活していた被告人が、右氏名を使用して交通切符中の供述書を作成した場合は、その氏名がたまたまある限られた範囲において被告人を指称するものとして通用していたとしても、私文書偽造罪が成立する。
事件番号: 昭和28(あ)4056 / 裁判年月日: 昭和28年12月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】外国人に対し居住地の市町村長への登録を義務付け、違反を処罰する外国人登録令の規定は、憲法22条1項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は朝鮮籍の外国人であり、外国人登録令に基づき居住地の市町村長に対して所要事項の登録を行う義務を負っていたが、これに違反して登録申請を行わず、または外国人登録証明…