一 覚せい剤の譲渡、譲受の制限および禁止に関する薬事法第四一条第七号、第四四条第七号、第五六条、覚せい剤取締法第一七条第三項、第四一条第一項第四号は、憲法第一三条に違反しない。 (裁判官栗山茂の少数意見) 被告人が当審で初めて適用罰条の違憲性を主張しても、それは刑訴四〇五条にいう、高等裁判所がした判決に対し憲法の解釈に誤があることを主張する場合には当らないこと明であるから、かかる上告趣意は不適法として排斥せらるべきものである。刑訴四〇五条に「憲法の違反があること」とは審判の手続が憲法に反する場合であつて本件の場合でないことはもとよりである。 わが司法裁判所は、立法行為が適憲であるか否かを審査し、それを無効とする権限を本質的にはもつていないのであつて、たゞ司法裁判所本来の作用として、具体的争訟事件を処理するに当つて、当事者から違憲の主張があるのでやむを得ず違憲の審査をするのである。 (裁判官斎藤悠輔の少数意見) 所論は、原審の審判手続が憲法に反し刑訴四〇五条一号前段に規定する「憲法の違反があること」を理由とするものでないことは栗山裁判官の意見と同一である。薬事法は、薬事を規正し、これが適正を図ることを目的とし、覚せい剤取締法は、覚せい剤の濫用による保険衛生上の危害を防止するための取締を行うことを目的とし、両法律とも何等所論のように善良な利用者をして覚せい剤を利用することをできなくするものでないことは明白である。 二 フエニルメチルアミノプロパンは、アミノフエニルスルフアミド若くはその誘導体、ペニシリン、ストレプトマイシン又はこれらの製剤のいずれでもなく、薬事法四一条七号にいわゆる「その他の医薬品」に該当するものとして昭和二五年二月一七日厚生省告示四五号をもつて指定せられたものであるから、所論判示のフエニルメチルアミノプロパンが同条同号に該当する。
一 覚せい剤の譲渡、譲受の制限および禁止に関する薬事法および覚せい剤取締法の規定の合憲性 二 フエニルメチルアミノプロパンは薬事法第四一条七号にいう「その他の医薬品」に該当するか
薬事法41条7号,薬事法44条7号,薬事法56条,昭和25年2月17日厚生省告示45号,覚せい剤取締法2条,覚せい剤取締法17条3項,覚せい剤取締法41条1項4号,憲法13条,裁判所法11条
判旨
薬事法及び覚せい剤取締法による指定医薬品等の販売・譲渡制限は、不適当な使用による生命・身体等への危害を防止し、公共の保健衛生を維持することを目的としており、憲法13条の公共の福祉に適合する正当な制約である。
問題の所在(論点)
薬事法(指定医薬品の販売制限)及び覚せい剤取締法(譲渡・譲受の禁止)による個人の営業・行動の自由の制約が、憲法13条が保障する幸福追求権等に対する公共の福祉による正当な制限として認められるか。
規範
特定の医薬品や覚せい剤の販売・譲渡を制限する法令が、公共の保健衛生上の目的、すなわち不特定多数人の生命・身体が危害を被ることを防止するために必要最小限度の制約を課すものである限り、憲法13条(生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利)の趣旨に反せず、公共の福祉に適合する合憲な制限である。
重要事実
被告人Aは、厚生大臣が指定した特定の医薬品(フェニルメチルアミノプロパン等)を処方箋等に基づかずに法定資格者以外に販売した。また、覚せい剤取締法が禁止する覚せい剤(フェニルメチルアミノプロパン等)の譲渡・譲受を行った。これに対し、被告人側は、当該法令による制限が善良な利用者の権利を害し、憲法13条に違反すると主張して上告した。
あてはめ
まず、薬事法の制限は、医薬品の不適当な使用が人の生命・身体に危害を及ぼす虞があることから、これを防止する「公共の保健衛生上の目的」に基づいている。次に、覚せい剤については、濫用による習慣性や慢性中毒が身体・精神に深刻な病態をもたらし、社会公共への危害(非行・犯罪)に直結する。したがって、法定資格者以外の譲渡等を禁止することは、濫用の原因を絶ち公共の福祉を守るために必要不可欠な措置といえる。被告人の行為は、これらの正当な制限に違反するものである。
結論
薬事法及び覚せい剤取締法の各規定は、憲法13条に違反しない。したがって、原判決の法令適用は正当であり、本件各上告を棄却する。
実務上の射程
憲法13条または22条1項の経済的自由の制約に関する初期の判例として活用できる。特に「公共の保健衛生」という積極的かつ強力な公共の福祉の要請がある場合、立法府による広範な規制が合憲とされる傾向を示す素材となる。答案上は、生命・身体という重大な利益を守るための規制であることを強調する際に引用すべきである。
事件番号: 昭和28(あ)2936 / 裁判年月日: 昭和31年5月22日 / 結論: 破棄差戻
法定の登録を受けることなく覚せい剤の製造を営む行為は、覚せい剤取締法第一五条、第四一条の罪にあたり、薬事法第二六条第一項、第五六条第一項の罪を構成するものではない。