東京都某区役所教育課学事係長たる被告人が、その職務に関する某小学校建設促進に尽力した謝礼として、同建設促進委員長から金五千円を記念品料として贈与されるに当り、被告人外関係者数名に対する記念品料が区役所内区議会副議長室において一場の儀式の許に右委員長から公然と贈呈され、被告人等の上司たる教育課長が代つてこれを受領した事実があつても、被告人の収受した右金五千円について賄賂たる性質が失われるものということはできない。
賄賂と認められる一事例
刑法197条1項前段
判旨
公務員が職務に関して受け取った金品は、たとえ公然と儀式的な形式で贈呈され、上司を経由して手交されたものであっても、実質的に公務員として収受すべきでないものであれば賄賂性を失わず、社会的儀礼の範囲内として許容されるものではない。
問題の所在(論点)
公務員が職務上の謝礼として受け取った金員が、公然と儀式的な形式(記念品料の名目)で、かつ上司を介して授受された場合であっても、賄賂罪の「賄賂」にあたるか。一般社会的儀礼として許容されるか。
規範
賄賂罪(刑法197条等)における「賄賂」とは、公務員の職務に関する不正な報酬としての利益を指す。その判断にあたっては、贈与の態様が公然か否か、あるいは儀式的な形式を伴うかといった外形的事実にとらわれず、当該利益の実質が公務員として収受すべきでない職務の対価(謝礼)にあたるか否かによって決すべきである。一般社会的儀礼の範囲内といえるか否かは、職務との密接性や利益の性質から厳格に判断される。
重要事実
被告人は東京都豊島区役所教育課学事係長として、小学校建設促進の職務に従事していた。その際、建設促進委員長から謝礼として金5000円を贈与された。この贈呈は、区役所内の区議会副議長室において公然と「記念品料」という名目の儀式の下で行われ、被告人の上司である教育課長が他の数名分と共に一括して受領した後に、被告人へ手交されたという経緯があった。
あてはめ
本件の金5000円は、被告人が学事係長として小学校建設促進に尽力したことに対する謝礼であり、被告人の公務と明確な対価関係が認められる。たとえ、区議会副議長室という公的な場所で、かつ上司が関与する一場の儀式を経て「記念品料」として贈呈されたとしても、それは外形的な形式にすぎない。実質的にみれば、当該金員は公務員がその職務に関連して収受すべきでない利益であることは明らかであり、社会的儀礼として正当化される限度を超えている。したがって、賄賂としての実質を失うものではない。
結論
被告人が収受した金員は賄賂にあたる。贈与の場所、形式、上司の介在という事情は、賄賂罪の成立を妨げるものではない。
実務上の射程
賄賂罪の成否において、授受の態様が「オープン(公然)」であることや、上司の「公認」があることは、直ちに違法性を阻却する事情とはならないことを示した。名目が「記念品料」や「祝儀」であっても、実質が職務への対価であれば賄賂とされるため、あてはめでは職務権限と利益の関連性(対価性)を最重視すべきである。
事件番号: 昭和27(あ)5176 / 裁判年月日: 昭和29年9月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公務員が受け取った金員が社会的儀礼の範囲内のものであるとしても、それが公務員の職務に関して供与されたものである限り、収賄罪における「賄賂」に該当する。 第1 事案の概要:被告人A及びBは公務員であり、職務に関連して複数の金員を受領した。被告人側は、授受された各金員は単なる「社会的儀礼」として贈られ…