北緯三〇度以南の南西諸島(口之島を含む)が外国とみなされていた当時免許を受けないで貨物を同地域から日本内地に密輸入した罪については、その後右地域が外国とみなされなくなつた場合は、犯罪後の法令により刑が廃止されたものと解すべきである。
外国とみなされていた地域からの貨物無免許輸入の罪と、右地域が外国とみなされなくなつたことによる刑の廃止の有無
旧関税法(明治32年法律61号−昭和24年法律65号により改正のもの)104条,旧関税法(昭和25年法律117号により改正されたもの)76条,関税法104条、関税定率法12条及び噸税法8条の規定に基き附属島しよを定める等の省令(昭和24年大蔵省令36号),右省令の一部を改正する省令(昭和27年大蔵省令5号),刑法6条,刑訴法337条2号,刑訴法411条5号
判旨
犯罪後の法令により輸入規制の対象地域が外された場合、当該行為の可罰性は失われ、「刑の廃止」があったものとして免訴を言い渡すべきである。
問題の所在(論点)
特定の地域が輸入規制の対象(外国扱い)から外れたことが、刑事訴訟法337条2号の「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき」に該当し、免訴事由となるか。
規範
刑事訴訟法337条2号にいう「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき」とは、単に刑罰規定が撤廃された場合だけでなく、法令の改正によって当該行為が犯罪を構成しないこととなり、その可罰性が失われた場合も含まれる。
重要事実
被告人は、昭和25年当時、旧関税法及び省令により「外国」とみなされていた南西諸島口之島から、税関の免許を受けずに古銅屑等を日本内地へ船で運び込み、陸揚げして輸入した。しかし、その後の昭和27年の省令改正により、口之島は外国とはみなされなくなり、本邦の地域に含まれることとなった。このため、同地域からの貨物運搬は無免許輸入としての処罰対象から外れることとなった。
あてはめ
本件行為の当時、口之島からの無免許輸入は旧関税法に基づき犯罪とされていたが、省令改正の結果、同地域は本邦の一部となり、同地域からの貨物の持ち込みは犯罪を構成しないこととなった。このような法令の改正は、単なる事実関係の変化ではなく、当該行為自体の可罰性を否定する法的評価の変更といえる。したがって、被告人の行為は「刑が廃止されたとき」に該当し、処罰することができなくなっていると解される。
結論
被告人に対し、刑事訴訟法337条2号に基づき免訴を言い渡すべきである。
実務上の射程
本判決は、限時法や事実関係の変化(いわゆる事実の変更)と「法の変更」の区別が問題となる場面で、多数意見として「可罰性の消滅」を広く認めたものである。反対意見が展開する「法律的見解の変更(法的評価の変更)」と「単なる事実の変遷」の区別論は、後の判例法理(最高裁昭和35年判決等)において採用される「法律的見解の変更があった場合に限り刑の廃止にあたる」という規範の先駆けとなっており、答案上は現在の判例通説である「法律的見解の変更」の有無を確認する視点が重要となる。
事件番号: 昭和26(あ)5027 / 裁判年月日: 昭和32年12月10日 / 結論: 破棄自判
一 密輸入物資の積込先がどこかによつて刑の廃止があると解せられる場合に、それが南西諸島方面というだけで証拠上奄美大島方面、沖繩方面の何れとも認定できないときは、被告人に有利に認定すべきである。 二 奄美大島方面から密輸入した物資を内地で運搬する罪は、奄美大島が外国とみなされなくなつた後は刑の廃止があつたものと解すべきで…