控訴審において、弁護人から示談弁償を理由として弁論再開申請があつたにかかわらず再開を許さなかつたことが、再開の請求を却下するという決定の形式によらなかつた違法があるとしても、それは形式だけの違法であつて、原判決に影響を及ぼさないこと明白である。
弁論の再開請求却下手続の瑕疵と判決への影響
刑訴法313条,刑訴規則214条
判旨
弁論を再開するか否かは裁判所の裁量に属し、示談交渉中である等の事情があっても、判決言渡までに示談成立の証跡がない場合に再開を認めないことは正当である。また、再開請求を却下する決定が形式的になされなかったとしても、それが直ちに判決に影響を及ぼす違法とはならない。
問題の所在(論点)
弁論終結後に情状事実に関する主張がなされた場合、裁判所が弁論を再開しないことは許されるか。また、弁論再開の請求に対し、決定という形式的な手続を経ずに判決を言い渡すことは判決に影響を及ぼす違法となるか。
規範
弁論を再開するか否かは、裁判所の広範な裁量に属する。弁論終結後に新たな情状事実が生じる可能性がある場合であっても、裁判所が諸般の事情を考慮して再開の必要がないと判断することは、裁量権の逸脱・濫用がない限り適法である。また、再開請求に対する形式的な却下決定の欠如は、実質的な判断に誤りがない限り、判決に影響を及ぼす違法とはならない。
重要事実
被告人は控訴審において、示談弁償のために努力中であるとして弁論の再開を求めた。しかし、控訴趣意書には「目下努力中」との記載があるのみで、原判決の言渡しに至るまで、実際に示談が成立したことを確認できる証跡は提出されなかった。原審は弁論を再開することなく判決を言い渡した。これに対し弁護人は、弁論再開請求に対し決定の形式で却下しなかった点、および審理不尽の点において違法であると主張して上告した。
あてはめ
弁論の再開は裁判所の裁量事項である。本件では、被告人側が示談交渉中であると主張していたものの、判決時までに示談成立という具体的な事実を裏付ける証拠が示されていなかった。このような状況下で、原審が再開の必要がないと判断して結審を維持したことは、合理的な裁量の範囲内であり正当といえる。また、再開請求を明示的に却下する決定の手続を欠いていたとしても、再開せずに判決を言い渡した以上、実質的に却下の判断が示されているといえ、形式上の不備が判決の結果を左右するものではない。
結論
弁論の再開は裁判所の裁量に属し、示談成立の証跡がない状況で再開を認めず、特段の決定をせず判決を言い渡した原審の判断に違法はない。
実務上の射程
弁論終結後の示談成立等を理由とする弁論再開請求に対する裁判所の裁量を認めた。司法試験においては、被告人に有利な情状が生じた際の裁判所の審理義務の限界を論じる際の根拠となる。ただし、被告人の権利保護の観点から、著しく重要な証拠が提出された場合などの裁量権の逸脱・濫用の有無については慎重に検討を要する。
事件番号: 昭和31(オ)850 / 裁判年月日: 昭和32年5月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】一旦終結した口頭弁論を再開するか否かは、当該裁判所の自由裁量に属する事項である。したがって、当事者が主張するような特段の事情があったとしても、弁論を再開せずに判決を言い渡すことは違法ではない。 第1 事案の概要:上告人は、原審における口頭弁論終結の際、またはその前後の状況に鑑みれば、弁論を再開すべ…