贈収賄被告事件において、不可分の供述の一部をとつて全体の意味と異る趣旨を認定して職務に関する饗応を認めた判決は証拠法の違反があると共に事実の誤認があつて刑訴第四一一条第一号第三号によりこれを破棄した上無罪の言渡をすることができる。
刑訴法第四一一条第一号第三号にあたる一事例
刑訴法317条,刑訴法318条,刑訴法411条,刑訴法413条,刑法197条,刑法198条
判旨
賄賂罪における「職務に関し」の意義につき、具体的な職務行為との対価関係のみならず、社交的儀礼の範囲を超える利益供与であるか否かを実態に即して慎重に判断すべきとした。
問題の所在(論点)
飲食の饗応(第一事実)及び現金の授受(第二事実)が、公務員の職務に関する賄賂としての対価性や知情を認めるに足りるか、またその認定の証拠が適正であるかが問題となった。
規範
刑法197条及び198条の賄賂罪における「職務に関して」とは、公務員の職務権限に属する事務に関することをいう。供与された利益が賄賂に該当するかは、単に名目が「お礼」や「手土産」であるか否かではなく、当該公務員の具体的職務との対価性、供与の趣旨、金額、背景事情を総合し、職務の公正及びそれに対する社会の信頼を害する実質を有するかによって判断される。
重要事実
被告人A(公務員)は、漁業許可に関し便宜を受けたお礼として、被告人Bから小料理店で約600円相当の酒食の饗応を受けた(第一事実)。また、その帰途、Bから「子弟への手土産」として現金9,800円が入った紙包みをポケットに押し込まれ受領した(第二事実)。Aは翌日現金を確認し、数日後に第三者の面前でBを諭して現金を返還した。第一審及び原審は両事実を賄賂罪として有罪としたが、被告人らが上告した。
あてはめ
第一事実について、Aは「焼酎は飲めないので杯に1、2杯程度、料理を食べただけ」と供述しており、Bも安価な飲食であった旨を供述している。判示された「600円(当時の高額な酒食)」に該当する飲食をした証拠はなく、贈賄の知情も認めがたい。対して第二事実の現金供与については、Bが「お礼」の趣旨で供与し、Aが一度受領した事実は認められ、後に返還したとしても、収賄・贈賄罪の成立自体は妨げられない。ただし、一連の認定において証拠の引用に不可分な部分を切り離すなどの不当な評価が認められた。
結論
第一事実(飲食の饗応)については証拠不十分で無罪。第二事実(現金供与)については有罪。原判決を破棄し、被告人Bを罰金5,000円に処する一方、被告人Aは第一事実につき無罪とした。
実務上の射程
社交的儀礼と賄賂の境界線が争点となる事案で、金額の僅少性や供与の経緯、事後の返還等の事情をどのように証拠評価すべきかを示す。答案上は、対価関係の有無を検討する際の具体的な事実認定の重要性を補強する材料として機能する。
事件番号: 昭和31(あ)3135 / 裁判年月日: 昭和33年9月30日 / 結論: 棄却
賄賂は職務行為に関するものであれば足り、個々の職務行為と賄賂との間に対価的関係のあることを必要とするものではない。