一 某会社に勃発した労働争議に関し、発生した建造物損壊被疑事件の被疑者に対し逮捕状が発せられたので、某警部補指揮の下に甲、乙両巡査を含む司法巡査五名が右会社工場内外付近各所において、右被疑者が工場を出てくるのを待つて、右逮捕状を執行すべく待機中、自転車で工場から出て来た被疑者を甲、乙両巡査が発見したが、逮捕状の所持者と連絡してこれを同人に示す時間的余裕がなかつたので、逮捕状が発せられている旨を告げて逮捕しようとした当時の情況は、刑訴法第二〇一条第二項の準用する同法第七三条にいわゆる「急速を要するとき」にあたる。 二 右の如き情況の下において、折柄被疑者の求めに応じて工場から馳せつけた被告人等が被疑者奪還のため、甲、乙両巡査に対し暴行を加えた以上、被告人等の右所為は公務執行妨害罪を構成する。
一 刑訴法第二〇一条第二項の準用する同法第七三条第三項にいわゆる「急速を要するとき」にあたる一事例 二 逮捕状を所持しない司法巡査が被疑者を逮捕しようとするに当り被疑者を奪還するためになした暴行と公務執行妨害罪の成立
刑訴法201条2項,刑訴法73条3項(昭和28年法律172号による改正前のもの),刑法95条1項,憲法33条
判旨
通常逮捕における逮捕状の呈示につき、刑事訴訟法201条2項が準用する73条3項の「急速を要するとき」に該当する場合には、令状を呈示せずに逮捕することが許容され、その職務執行は適法である。
問題の所在(論点)
通常逮捕の執行において、令状を呈示せずに逮捕することが許される「急速を要するとき」(刑事訴訟法201条2項、73条3項)の意義と、その場合の職務執行の適法性。
規範
通常逮捕において、逮捕状が発せられているがこれを所持しないため直ちに呈示できない場合に、刑事訴訟法201条2項が準用する同法73条3項の「急速を要するとき」に該当するときは、被疑事実の要旨及び令状が発せられている旨を告げて、令状を呈示することなく執行することが認められる。この場合、当該執行行為は適法な職務の執行となる。
重要事実
司法巡査AおよびBが、Cを通常逮捕しようとした際、刑事訴訟法201条2項・73条3項にいう「急速を要するとき」に該当する状況が存在した。警察官らは同規定に基づき、令状の呈示を後回しにする形で逮捕行為に及んだが、これが公務執行妨害罪等の文脈において「職務の執行」としての適法性を有するかが争点となった。
あてはめ
本件において、司法巡査らによるCに対する逮捕行為は、客観的にみて「急速を要するとき」の要件を満たしていた。このような状況下では、令状を現に所持していなくても直ちに執行に及ぶことが法律上認められている。したがって、原審が本件逮捕行為を適法な「職務の執行」であると判断したことは、刑事訴訟法の規定に照らして正当である。
結論
本件逮捕行為は刑事訴訟法201条2項、73条3項の要件を満たす適法な職務執行であり、これに対する抵抗等は公務執行妨害罪等を構成し得る。
実務上の射程
通常逮捕における緊急執行(令状の呈示に代わる告知による執行)の適法性を肯定する際の根拠として用いる。司法試験においては、公務執行妨害罪の成否に関連して、逮捕行為の適法性を検討する際の規範として活用できる。
事件番号: 昭和30(あ)466 / 裁判年月日: 昭和32年6月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】緊急逮捕(刑訴法210条)は、憲法33条が要求する厳格な制約の下、急速を要し令状を求める余裕がない場合に限って認められるものであり合憲である。また、被疑者が特定され、逮捕の実を挙げるために緊急の必要があると認められる状況下では、理由を告げるための接近行為自体も適法な職務執行となる。 第1 事案の概…