一 旧関税法第三一条、第七六条にいわゆる「貨物」中には「船舶」を含む。 二 第一審判決が被告人の犯罪事実の存在を確定せず無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所が何ら事実の取調をすることなく第一審判決を破棄し、訴訟記録並びに第一審裁判所において取り調べた証拠のみによつて、直ちに被告事件について犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をすることは、刑訴第四〇〇条但書の許さないところである。 三 (裁判官田中耕太郎、同斎藤悠輔、同岩松三郎、同本村善太郎の少数意見) 要するに、刑訴法は、第一審裁判所が、事実を認定しその事実が法律上罪とならずとして無罪を言い渡した場合たると、また、その取り調べた証拠によつては事実を認めるに足りないとして無罪を言い渡した場合たるとを問わず、控訴裁判所は、事後審として法律上認められた訴訟資料に基き自由な見地に立つて法律判断ないし事実判断をなしうるものとしているのであつて、再び事実調をなす必要があるか否かそれ自体をも控訴裁判所の裁量に委ねているのである。これが、刑訴四〇〇条本文並びに但書の法意であつて、かかる審級制度に関する現行刑訴の立法は適憲であること論を俟たない。
一 旧関税法にいわゆる「貨物」と「船舶」 二 事実を確定しないで無罪を言い渡した第一審判決を控訴審が書面審理のみにより破棄し自ら有罪の言渡をすることと刑訴第四〇〇条但書
旧関税法31条,旧関税法76条,刑訴法400条,憲法31条,憲法37条,裁判所法11条
判旨
第一審が犯罪事実の存在を確定せずに無罪を言い渡した事案において、控訴審が事実の取調べをすることなく、書面審理のみで直ちに有罪判決をすることは、直接審理主義・口頭弁論主義の原則に反し、刑訴法400条但書により許されない。
問題の所在(論点)
第一審が事実確定をせずに無罪を言い渡した場合において、控訴審が刑訴法400条但書に基づき、事実の取調べをせず書面審理のみで有罪の自判をすることが許されるか。
規範
控訴審は事後審としての性質を有するが、第一審が犯罪事実を確定せず無罪とした場合に、控訴審が新たな事実取調べを行わず、記録と証拠の書面審理のみで直ちに有罪を言い渡すことは、憲法31条、37条等が保障する直接審理主義及び口頭弁論主義の原則を害する。したがって、かかる場合は刑訴法400条但書の規定に基づく自判は許されず、控訴審は自ら事実の取調べを行うか、第一審に差し戻すべきである。
重要事実
被告人らは、免許を受けずに船舶を台湾に輸出しようとしたとして、旧関税法違反等で起訴された。第一審は、船舶が同法にいう「貨物」に当たらないという法令解釈に基づき、犯罪事実の存否を具体的に確定することなく無罪を言い渡した。これに対し、控訴審は船舶も「貨物」に当たると判断した上で、自ら事実の取調べを行うことなく、第一審の訴訟記録と証拠のみに基づき、直ちに被告人らを有罪とする逆転有罪判決を言い渡した。
あてはめ
第一審判決は被告人の犯罪事実を確定しておらず、被告人等には罪責なしと判示したに留まる。被告人は、公開の法廷で適法な証拠調べが行われ、意見・弁解を述べる機会を与えられた上でなければ犯罪事実を確定されない権利を保有する。第一審で事実が確定されていない以上、控訴審が書面のみで事実を確定することは、直接審理・口頭弁論主義を没却するものであり、訴訟手続の法令違反があるといえる。原審は、法令解釈の誤りを正した上で、自ら事実を取り調べるか、第一審へ差し戻すべきであった。
結論
控訴審が事実の取調べをせず、第一審の記録のみで有罪を自判することは違法である。原判決を破棄し、本件を第一審裁判所に差し戻す。
実務上の射程
第一審の無罪判決を破棄して有罪を自判する場合の限界を画した重要判例である。答案上は、控訴審における逆転有罪判決の可否が問われた際、特に第一審が事実認定を回避して無罪としたケースにおいて、直接審理主義の観点から刑訴法400条但書の適用を制限する論理として引用する。
事件番号: 昭和29(あ)1420 / 裁判年月日: 昭和33年3月18日 / 結論: その他
第一審判決が無免許輸入未遂幇助の事実について犯罪の証明がないとして無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所がその点について何ら事実の取調をすることなく右判決を破棄し、訴訟記録および第一審裁判所において取り調べた証拠のみによつて直ちに右無免許輸入未遂幇助の事実についても有罪の判決をすることは、たとえ第一審判決中に被告人の同一船…
事件番号: 昭和26(あ)4097 / 裁判年月日: 昭和27年10月10日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】被告人間に起訴・不起訴や没収の有無の差があっても、それが裁判所の恣意的な差別待遇でない限り、憲法14条の法の下の平等に反しない。また、憲法37条(公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利)は、個別の具体的事件における処理の適否を直接対象とするものではない。 第1 事案の概要:被告人Aら複数が関税法…
事件番号: 昭和30(あ)1504 / 裁判年月日: 昭和30年11月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不利益変更禁止の原則(刑訴法402条)は、判決主文の刑を原判決より不利益に変更することを禁ずるものであり、理由中の判断が不利益になることは許容される。また、抑留期間が不当に長いか否かは、証人の数や関係地域の広範性、事案の複雑性等の諸事情を総合して判断すべきである。 第1 事案の概要:被告人Aおよび…
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原審判決が、本件第一審判決の判文全体の記載から合理的に見て、同判決が所論告発書を挙示したのは、その判示第一事実の罪となるべき事実の直接認定資料に供したものではなく、公訴提訴の手続の有効性の認定のためであると判示したときは、かかる告発書を証拠とすることは違法である旨判示した判例(昭和二五年二月一五日福岡高裁判決)と相反す…