住居不定で身柄を拘束されていない被告人が、控訴審において住居とは認め難い場所を送達場所とし自己を送達受取人として届け出る旨の書面を提出し、上告を申し立てながら、住居又は事務所を届け出ず、送達受取人を選任して届け出ることもなく、上告審あての弁護人選任回答書にも住居として右場所を記載したなど判示の事実関係の下においては、右場所にあてて行った被告人に対する上告趣意書差出最終日通知書等の書留郵便に付する送達は、有効である。
住居不定の被告人に対する上告趣意書差出最終日通知書等の付郵便送達が有効とされた事例
刑訴法54条,刑訴規則62条1項,刑訴規則63条1項
判旨
被告人が住居の実体のない場所を送達場所として届け出た場合、当該場所を刑訴規則62条1項の住居等と認めることはできないが、同規則63条1項の趣旨に照らし、当該場所宛ての書留郵便による送達(付記送達)を有効と解すべきである。
問題の所在(論点)
被告人が住居の実体のない場所を送達場所として届け出た場合、当該場所への書留郵便による送達(刑訴規則63条1項参照)を有効と解することができるか。
規範
刑訴規則62条1項の住居等の届出がない場合であっても、被告人が住居としての実体のない場所を恣意的に送達場所として届け出たときは、書類が現実には届かない不利益を被告人が被ることもやむを得ない。したがって、刑訴規則63条1項の趣旨に照らし、当該届出場所を宛先とする書留郵便に付する送達(付記送達)を有効に行うことができる。
重要事実
住居不定の被告人は、第一審の執行猶予判決により釈放された後、住民登録上の住所(妹が第三者に賃貸中の家屋)を送達場所として届け出た。しかし、被告人は当該場所に居住していなかった。最高裁判所書記官が上告趣意書差出最終日通知書等を同所に発送したが、転居先不明で返送されたため、同所宛てに書留郵便に付する送達(付記送達)を行った。被告人側は、当該送達が不適法であると主張した。
あてはめ
被告人は上告を申し立てながら、適法な住居等の届出や送達受取人の選任を行わず、実体のない場所を送達場所として届け出た。このような状況下で、届出場所に書類が届かないことによる不利益を被告人に帰せしめることは、適正手続の観点からも許容される。刑訴規則63条1項は住居等への送達を前提とするが、自ら虚偽の場所を指定した本件のような場合にも、同条の趣旨を及ぼし、付記送達を認めるのが相当である。
結論
被告人に対する上告趣意書差出最終日通知書の送達は有効であり、これを受領したとみなされる以上、上告趣意書の提出遅延を理由とする上告棄却は適法である。
実務上の射程
送達場所の虚偽届出という信義則に反する被告人の行為に対し、実体的な住居性がなくとも書留送達(付記送達)の効力を認める判例である。答案上では、送達手続の適法性が争点となる刑事訴訟法上の問題において、規則の文言を形式的に適用せず、規則の趣旨に基づく弾力的運用を肯定する根拠として活用できる。
事件番号: 昭和27(あ)2980 / 裁判年月日: 昭和28年12月19日 / 結論: 棄却
被告人に対し控訴趣意書提出最終日の通知がなされなくても、弁護人に右通知がなされ、弁護人が期間内に控訴趣意書を提出し、公判期日においてこれに基いて弁論し、被告人に対する右通知の違法について何ら異議を述べなかつた場合には、刑訴第四一一条を適用すべき場合にあたらない。