一 被害者が身体傷害を承諾した場合に傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合せて決すべきである。 二 過失による自動車衝突事故であるかのように装い保険金を騙取する目的で、被害者の承諾を得てその者に故意に自己の運転する自動車を衝突させて傷害を負わせた場合には、右承諾は、当該傷害行為の違法性を阻却するものではない。
一 被害者の承諾と傷害罪の成否 二 被害者の承諾が傷害行為の違法性を阻却しないとされた事例
刑法35条,刑法204条,刑法211条
判旨
被害者の承諾がある傷害行為であっても、その承諾が保険金詐取という違法な目的に利用するために得られたものである場合には、社会通念上相当性を欠き、違法性は阻却されない。
問題の所在(論点)
被害者の承諾がある場合に、刑法204条の傷害罪の違法性が阻却されるための判断基準、および保険金詐取目的で得られた承諾の有効性が問題となる。
規範
身体傷害に対する被害者の承諾が違法性を阻却するか否かは、単に承諾の事実があることのみならず、承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合わせて、その行為が社会通念上相当なものといえるか否かによって決すべきである。
重要事実
被告人は、過失による自動車衝突事故を装って保険金を騙取しようと企て、被害者の承諾を得た上で、故意に自己の運転する自動車を被害者に衝突させて身体傷害を負わせた。
事件番号: 昭和43(し)89 / 裁判年月日: 昭和43年11月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】再審請求において、刑訴法435条各号に該当する事由が認められない場合には、請求を棄却した原決定は正当であり、憲法32条違反等の主張は前提を欠く。 第1 事案の概要:抗告人は、確定判決に対して再審を申し立てたが、原決定により棄却された。これに対し、抗告人は、憲法31条(適正手続き)、32条(裁判を受…
あてはめ
本件における被害者の承諾は、保険金を騙取するという違法な目的に利用するために得られたものである。このような動機・目的に基づく身体傷害は、たとえ被害者の承諾があったとしても、社会通念上相当な行為とは認められない。したがって、当該承諾は違法なものであり、傷害行為の違法性を阻却するに足りない評価を受ける。
結論
保険金詐取目的による被害者の承諾は無効であり、被告人には傷害罪が成立する。
実務上の射程
被害者の承諾に関するリーディングケースである。答案上は、承諾の存在のみで直ちに違法性が阻却されるわけではなく、「目的・手段・態様」等の諸般の事情から「社会通念上の相当性」を判断する枠組みを示す際に用いる。特に、保険金詐取や暴力団の指詰めなど、目的が反社会的である場合には相当性を否定する有力な論拠となる。
事件番号: 昭和54(し)94 / 裁判年月日: 昭和54年9月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】有罪の確定判決に対しどの限度で再審請求を許すかは、もっぱら立法政策の問題であり、刑事訴訟法435条6号の規定が憲法31条、32条に違反することはない。 第1 事案の概要:有罪の確定判決を受けた被告人が、再審事由を規定する刑事訴訟法435条6号の文言ないし運用が憲法31条および32条に違反する旨を主…
事件番号: 平成7(し)75 / 裁判年月日: 平成11年3月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】再審請求において提出された新証拠について、その明白性を否定して再審請求を棄却した原決定の判断は正当である。特別抗告における憲法違反や判例違反の主張が実質的に事実誤認や単なる法令違反にすぎない場合は、適法な抗告理由に当たらない。 第1 事案の概要:申立人は、確定判決に対する再審請求を行い、その際に新…
事件番号: 平成7(し)49 / 裁判年月日: 平成10年10月27日 / 結論: 棄却
一 確定判決が科刑上一罪として処断した一部の罪について無罪とすべき明らかな証拠を新たに発見した場合は、その罪が最も重い罪ではないときであっても、刑訴法四三五条六号の再審事由に該当する。 二 確定判決が詳しく認定判示した犯行の態様の一部に事実誤認のあることが判明した場合であっても、そのことにより罪となるべき事実の存在に合…
事件番号: 昭和54(し)109 / 裁判年月日: 昭和55年12月11日 / 結論: 棄却
本件事案(原判文参照)につき請求人提出にかかる証拠の新規性及び明白性を認めて再審請求を認容すべきものとした原決定の判断は、是認することができる。