第一審判決後被告人の妻によつて選任された弁護人は、被告人のために控訴申立をする権限がない。
第一審判決後被告人の妻によつて選任された弁護人と控訴申立権
刑訴法30条2項,刑訴法351条1項,刑訴法355条
判旨
第一審判決の宣告後に被告人の妻によって新たに選任された弁護人は、刑事訴訟法355条にいう「原審における弁護人」には当たらない。したがって、当該弁護人が被告人のために独自に控訴を申し立てる権限はない。
問題の所在(論点)
第一審の判決宣告後に、被告人の配偶者(刑訴法30条2項の選任権者)によって新たに選任された弁護人が、刑法訴訟法355条にいう「原審における弁護人」として、被告人のために独立して控訴を申し立てる権限を有するか。
規範
刑事訴訟法355条が「原審における弁護人」に被告人のため独立して上訴できる権限(固有上訴権)を付与した趣旨は、法律専門家である弁護人の地位・職責に鑑み、被告人の防御権を拡充・強化する点にある。もっとも、同条にいう「原審における弁護人」とは、原則として原審の判決宣告時までに選任されていた弁護人を指す。判決宣告後に新たに選任された弁護人は、被告人本人から上訴の申立て等の代理権を別途授与されていない限り、同条に基づく独立の上訴権を有しない。また、被告人の妻等の選任権者が選任した弁護士であっても、当然に被告人の上訴権を代理行使する権限まで認められるものではない。
重要事実
被告人は第一審において有罪判決の宣告を受けた。第一審判決の宣告時には弁護人が選任されていたが、当該弁護人および被告人本人は控訴の申立てを行わなかった。判決宣告の翌日、被告人の妻が新たに弁護士を選任し、第一審裁判所に弁護人選任届を提出した。さらにその翌日、当該新たに選任された弁護士が、自らの名義で本件控訴の申立てを行った。これに対し、控訴審は上訴権のない者による不適法な申立てであるとして控訴棄却の決定を下したため、弁護側が抗告した。
事件番号: 昭和47(し)80 / 裁判年月日: 昭和47年10月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】第一審判決の言渡し後に被告人の配偶者によって選任された弁護人は、被告人のために控訴を申し立てる固有の権限を有しない。 第1 事案の概要:第一審判決が言い渡された後、被告人の妻が弁護人を選任した。この新たに選任された弁護人が、被告人のために控訴の申立てを行ったが、原審は当該弁護人には控訴の申立権がな…
あてはめ
本件において、控訴を申し立てた弁護士は、第一審の判決宣告が終了した後に、被告人の妻によって初めて選任されたものである。判例によれば、刑訴法355条の「原審における弁護人」は判決宣告時にその地位にある者に限られるため、本件弁護士は同条に基づく固有の上訴権を有しない。また、本件弁護士は被告人の妻(選任権者)によって選任されているが、妻自身には上訴権が認められていない以上、妻からの選任という事実のみをもって被告人の上訴権を代理行使する権限が当然に生じるものでもない。したがって、本件弁護士による控訴申立ては、適法な上訴権者によってなされたものとは認められない。
結論
被告人の妻によって判決後に選任された弁護人は控訴申立権を有さず、本件控訴は不適法である。
実務上の射程
本決定は、刑訴法355条の「原審における弁護人」の範囲を判決宣告時の者に限定する従来の判例を維持したものである。司法試験においては、上訴の適法性を問う問題において、選任のタイミング(判決宣告の前後)と選任者(本人か親族か)に着目して申立権の有無を判断する際の指標となる。実務上、判決後に新たに就任する弁護人が控訴を行う場合は、被告人本人による申立てに代行するか、被告人から明示的な代理権の授与を受ける必要がある。
事件番号: 昭和33(し)12 / 裁判年月日: 昭和33年11月24日 / 結論: 棄却
一 原審における代理人または弁護人および被告人の法定代理人または保佐人に該当しない被告人の父からの控訴申立は不適法である。 二 第一審裁判所は、控訴の申立が法令上の方式に違反していることを理由として右申立を棄却することはできない。
事件番号: 昭和45(し)51 / 裁判年月日: 昭和45年9月24日 / 結論: 棄却
原審弁護人でない弁護士名義の控訴申立書のみが控訴提起期間最終日に原裁判所へ差し出された場合、その控訴申立は無権限者のしたものとして不適法であり、その翌日同弁護士を弁護人に選任する旨の届出が追加提出されたとしても、これにより右不適法な控訴申立が適法有効となるものではない。
事件番号: 昭和62(し)107 / 裁判年月日: 昭和63年2月17日 / 結論: 破棄差戻
原判決後選任された弁護人は、その選任者が上訴権を有しない場合であつても、被告人を代理して上訴申立をすることができる。
事件番号: 昭和54(し)105 / 裁判年月日: 昭和54年11月6日 / 結論: 棄却
即時抗告又はこれに代わる異議の申立について、申立書に申立理由の記載があるとは認められず、申立期間内に理由書の提出もないときは、手続がその規定に違反したものとして、申立を棄却すべきである。