原判決後選任された弁護人は、その選任者が上訴権を有しない場合であつても、被告人を代理して上訴申立をすることができる。
原判決後上訴権のない選任権者により選任された弁護人のした上訴申立の適否
刑訴法30条2項,刑訴法32条2項,刑訴法41条,刑訴法351条1項,刑訴法353条,刑訴法355条,刑訴法433条
判旨
被告人以外の選任権者により選任された弁護人は、その選任者に上訴権がない場合であっても、被告人の意思に反しない限り、被告人を代理して上訴を申し立てることができる。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法30条2項に基づき「被告人以外の選任権者」によって選任された弁護人が、当該選任者に独自の「上訴権(刑訴法353条・355条)」がない場合に、被告人を代理して「被告人の上訴(刑訴法351条1項)」を申し立てることができるか。弁護人の固有の代理権の範囲が問題となる。
規範
弁護人は、被告人のなし得る訴訟行為について、その性質上許されないものを除き、個別的な特別の授権がなくとも、被告人の意思に反しない限り、これを代理して行うことができる。このことは、選任者が被告人本人であるか、刑事訴訟法30条2項所定の選任権者であるかによって差異はなく、上訴の申立てをその例外とすべき理由もない。したがって、原判決後に被告人のために上訴をする権限を有しない選任権者によって選任された弁護人であっても、同法351条1項による被告人の上訴申立てを代理して行うことができる。
重要事実
被告人(昭和43年生)は、昭和62年6月17日に不定期刑の判決を受けた。翌18日、被告人の母が法定代理人として弁護士を選任し、同弁護人が控訴を申し立てた。しかし、被告人は昭和61年に婚姻しており、民法上の成年擬制(当時の民法753条)により、母は選任当時に既に法定代理権を喪失し、被告人のために上訴する権限(刑訴法353条)を有していなかった。原審は、当該弁護人には上訴申立権がないとして控訴を棄却した。
事件番号: 昭和47(し)80 / 裁判年月日: 昭和47年10月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】第一審判決の言渡し後に被告人の配偶者によって選任された弁護人は、被告人のために控訴を申し立てる固有の権限を有しない。 第1 事案の概要:第一審判決が言い渡された後、被告人の妻が弁護人を選任した。この新たに選任された弁護人が、被告人のために控訴の申立てを行ったが、原審は当該弁護人には控訴の申立権がな…
あてはめ
本件において、弁護士を選任した母は、被告人の成年擬制により法定代理人としての独自の控訴権を喪失していた。しかし、弁護人の代理権は、選任者の権限に依拠するものではなく、弁護人という地位に付随するものである。上訴申立ては被告人の意思に反しない限り、性質上弁護人による代理が可能な訴訟行為である。したがって、被告人の意思に反するなどの特段の事情がない限り、母から選任された弁護士であっても、被告人本人の控訴を代理して申し立てる権限が認められる。これに対し、弁護人に上訴申立権がないとした原審の判断は、刑訴法の解釈を誤ったものである。
結論
被告人のために上訴をする権限を有しない選任権者によって選任された弁護人も、被告人の意思に反しない限り、被告人の上訴を代理して申し立てることができる。
実務上の射程
弁護人の代理権が被告人本人の訴訟活動を補助・代行する広範なものであることを認めた大法廷判決。答案上は、弁護人の地位と権限(独立性と代理性)を論ずる際、特に選任手続きの瑕疵や選任者の権限喪失が弁護活動の有効性に及ぼす影響を検討する局面で使用する。実務上も、弁護人の訴訟行為が「被告人の意思に反しない限り」有効とされる基準を確立したものとして重要である。
事件番号: 昭和25(し)27 / 裁判年月日: 昭和26年2月9日 / 結論: 棄却
強制弁護の事件につき、裁判所が被告人に対し、弁護人を選任することができること、貧困その他の事由によつて弁護人を選任することができないときは、弁護人の選任を請求することができるとの記載のある弁護人選任に関する通知を出したのに対し、被告人から自分の方で弁護人甲を選任する旨を回答があつた場合には、控訴裁判所は被告人に対し、控…
事件番号: 昭和47(し)16 / 裁判年月日: 昭和47年4月3日 / 結論: 棄却
憲法三七条三項前段所定の弁護人を依頼する権利は、被告人が自ら行使すべきもので裁判所は被告人にこの権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければ足りるものであること、同項後段の規定は、被告人が弁護人を依頼することができないときは、国に対し弁護人の選任を請求する権利があることを認めたものであつて国はかかる請求がなされたと…
事件番号: 昭和28(し)21 / 裁判年月日: 昭和28年7月16日 / 結論: 棄却
原審の判示するところは、単に、被告人から控訴した事件において、一審の弁護人であつた梅山実明、同伊藤静男から控訴趣意書と題する書面が提出されたけれども、右弁護人等の原審における選任届は控訴趣意書提出最終日を経過した後に提出されたため、右控訴趣意書は結局無権限のものによつて提出された無効のものであり且つ後に提出された弁護人…
事件番号: 昭和45(し)51 / 裁判年月日: 昭和45年9月24日 / 結論: 棄却
原審弁護人でない弁護士名義の控訴申立書のみが控訴提起期間最終日に原裁判所へ差し出された場合、その控訴申立は無権限者のしたものとして不適法であり、その翌日同弁護士を弁護人に選任する旨の届出が追加提出されたとしても、これにより右不適法な控訴申立が適法有効となるものではない。