公訴棄却の決定に対しては、被告人・弁護人からその違法・不当を主張して上訴することはできない。
公訴棄却の決定に対する被告人・弁護人の上訴権
刑訴法339条,刑訴法351条,刑訴法355条,刑訴法426条1項,憲法32条
判旨
被告人又は弁護人は、公訴棄却の決定に対し、その違法又は不当を理由として上訴することはできない。公訴棄却は被告人にとって手続からの解放を意味するものであり、実体的審判を求める利益は認められないためである。
問題の所在(論点)
公訴棄却の決定に対して、被告人又は弁護人が、実体判決(無罪判決等)を求めて上訴(抗告)を申し立てることが許されるか。被告人側に「上訴の利益」が認められるかが問題となる。
規範
被告人側からの上訴は、自己に不利益な裁判の是正を求める場合にのみ許される。公訴棄却の決定は、被告人に対する刑罰権の存否を確定させることなく訴訟を終結させる形式的裁判であり、被告人を不安定な訴訟状態から解放するものであるから、被告人側にこれに対する不服申立ての利益は認められない。
重要事実
第一審裁判所が被告人の死亡を理由として公訴棄却の決定(刑事訴訟法339条1項4号参照)をしたのに対し、被告人及び弁護人がその違法・不当を主張して上訴(抗告)を申し立てた事案。弁護人側は被告人が検察官の主張とは異なる経緯で死亡したことなどを主張していた。
事件番号: 昭和24(つ)81 / 裁判年月日: 昭和24年7月27日 / 結論: 棄却
原決定は被告人の死亡により本件公訴を棄却したものであるから、これに對しては、被告人又は原審辯護人からは、上訴をすることができないものといわなければならない。
あてはめ
公訴棄却の決定は、実体的な有罪判決による刑罰を免れさせ、訴訟手続を終了させるものである。本件において被告人側が主張する違法・不当の事由が何であれ、公訴棄却という形式的裁判によって被告人の法的地位が不利に置かれることはない。したがって、無罪判決を求める権利があるとしても、形式裁判により手続が打ち切られた以上、これを上訴により争う法的利益はないと解される。
結論
公訴棄却の決定に対しては、被告人・弁護人からその違法・不当を主張して上訴することはできない。本件抗告は棄却される。
実務上の射程
本判決は「被告人側からの形式裁判に対する上訴の利益」を否定したリーディングケースである。答案上は、免訴(337条)や公訴棄却(338条、339条)に対し、被告人が「無罪判決」を求めて上訴できるかという論点において、上訴の利益(不利益の欠如)を理由に否定する根拠として引用する。ただし、団藤意見が示すように「生存しているのに死亡と誤認された場合」等の例外については議論の余地がある点に留意が必要である。
事件番号: 昭和31(し)49 / 裁判年月日: 昭和32年6月12日 / 結論: 棄却
拘置所長あてに送達された起訴状の謄本が、誤つて同姓同名の他の在監者に交付され、被告人がその交付を受けなかつた場合には、起訴状の謄本の送達がなかつた場合と同様に、公訴の提起はさかのぼつてその効力を失う。
事件番号: 昭和41(し)43 / 裁判年月日: 昭和41年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公訴棄却を求める申立ては裁判所の職権発動を促すものにすぎず、却下決定に対しては終局裁判に対する上訴によって不服を申し立てるべきであるから、特別抗告の対象とはならない。 第1 事案の概要:申立人が、裁判所に対し公訴棄却を求める申立てを行ったところ、裁判所がこれを却下する旨の決定をした。これに対し、申…
事件番号: 昭和59(し)9 / 裁判年月日: 昭和59年2月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公訴提起の手続の違法を理由に公訴棄却を求める申立ては、裁判所の職権発動を促すものにすぎず、これに応じない裁判所の見解表明に対して特別抗告を申し立てることはできない。 第1 事案の概要:申立人は、被告事件の公訴提起の手続に違法があるとして、裁判所に対し公訴棄却の裁判を求めた。これに対し、原審は当該違…
事件番号: 昭和37(し)50 / 裁判年月日: 昭和38年10月31日 / 結論: その他
一 被告人が公判期日に出頭しなければ、判決の宣告ができない事件につき、被告人不出頭のまま判決の宣告をした瑕疵があつても、上訴提起期間は判決宣告の日から進行する。 二 右の場合において、控訴申立書と題する書面に、被告人が判決宣告の翌日判決通知書を受けた旨並びに右判決に不服を申し立てるについては上訴権回復の請求に関する刑訴…