男女の性器及び実際の性交場面を直接撮影していないモーテル用ビデオテープであつても、男女の俳優による性交、性戯等の姿態、発声の演技をきわめて大胆、露骨、執ように描写することにより、見る者に対し、実際の性交場面等を容易に連想させて直接的かつ強度の性的刺激を与えるもの(原判文参照)は、刑法一七五条にいう「猥褻ノ図画」にあたる。
モーテル用ビデオテープが刑法一七五条にいう「猥褻ノ図画」にあたるとされた事例―いわゆる日活わいせつビデオ事件―
刑法175条
判旨
刑法175条にいう「わいせつ」とは、徒に性欲を興奮・刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいい、この構成要件は明確である。モーテル用ビデオテープであっても、上記定義に該当する限り「わいせつの図画」にあたる。
問題の所在(論点)
刑法175条の「わいせつ」の定義が不明確であり憲法31条・39条に違反しないか、およびモーテル用ビデオテープが「わいせつの図画」に該当するか。
規範
刑法175条の「わいせつ」とは、①徒に性欲を興奮または刺激せしめ、かつ②普通人の正常な性的羞恥心を害し、③善良な性的道義観念に反するものをいう。この定義は確立された判例法理であり、同条の構成要件は罪刑法定主義(憲法31条)に照らして明確である。
重要事実
被告人が、モーテルでの使用を目的としたビデオテープを頒布・販売等の目的で所持したとして、刑法175条のわいせつ物頒布等の罪に問われた事案。被告人側は、同条の構成要件が不明確であり憲法31条等に違反すること、および本件ビデオテープがわいせつ物にはあたらないことを主張して上告した。
事件番号: 昭和46(あ)1666 / 裁判年月日: 昭和46年12月23日 / 結論: 棄却
わいせつ文書等の頒布等を禁止した刑法一七五条は、憲法一三条に違反しない。
あてはめ
判例が示す「わいせつ」の三要素(性欲の興奮・刺激、性的羞恥心の侵害、性的道義観念への反逆)は、過去の大法廷判決等により確立されており、構成要件として明確である。本件の各モーテル用ビデオテープについても、これらの基準に照らせば、一般人の視点から見て性欲を徒に刺激し、社会通念上の性的道義観念に反する表現を含むと評価されるため、原審が「わいせつの図画」に該当すると判断したことは正当である。
結論
刑法175条の構成要件は明確であり、本件各モーテル用ビデオテープが「わいせつの図画」にあたるとした原判断は正当である。
実務上の射程
チャタレー事件以降の「わいせつ」概念を維持し、ビデオテープという媒体にも適用した点に意義がある。答案上は、わいせつ表現の定義を定立する際の基本判例として引用し、媒体の特性や頒布形態にかかわらず、三要素を具備すれば175条の規制対象となることを論じる際に使用する。
事件番号: 昭和57(あ)165 / 裁判年月日: 昭和59年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条の「わいせつ」概念は罪刑法定主義に反せず、同条による処罰は表現の自由等を保障する憲法21条、19条、31条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が、刑法175条に基づきわいせつ文書の出版等の罪に問われた事案。弁護人は、同条が読書の自由(憲法21条)や思想の自由(同19条)を侵害し、適…
事件番号: 昭和58(あ)1546 / 裁判年月日: 昭和59年9月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条のわいせつ物頒布等の規定は、憲法13条、21条、31条に違反せず、また、他人の権利侵害や未成年者への配慮を欠く場合に限定して解釈しなくとも合憲である。 第1 事案の概要:被告人が刑法175条の罪に問われた事案において、被告人および弁護人は、同条が個人の幸福追求権(憲法13条)や表現の自…
事件番号: 昭和57(あ)281 / 裁判年月日: 昭和58年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条のわいせつ物頒布罪による処罰は、表現の自由を保障する憲法21条に違反せず、また「わいせつ」の概念は憲法21条、31条が要求する明確性の原則にも反しない。 第1 事案の概要:被告人は、いわゆる「ビニール本」を販売した行為について、刑法175条(わいせつ物頒布罪)の罪に問われた。これに対し…