一 失業対策事業等に就労する日雇労働者は、その使用者である事業主体に対する関係で団体交渉権を有する。 二 多数の勢威を背景に実力を行使して団体交渉を迫り、要求を受けながら県庁庁舎から退去しなかつた被告人らの本件所為(原判文参照)は、その手段・方法において社会通念の許容する団体交渉ないし団体行動権の正当な行使にあたらない。
一 失業対策事業等に就労する日雇労働者と団体交渉権 二 団体交渉ないし団体行動権の正当な行使にあたらないとされた事例
憲法28条,刑法35条,刑法130条後段,労働組合法1条,労働組合法7条2号
判旨
指導調整権者であるとともに事業主体の長でもある知事に対し、労働条件に関する通達の交渉を求めることは、団体交渉の申入れに該当し得る。しかし、多数の勢威を背景とした実力行使による交渉は、正当な権利行使の範囲を逸脱し、保護されない。
問題の所在(論点)
指導調整権者としての行政庁(知事)に対する交渉が団体交渉の申入れに該当するか。また、実力行使を伴う交渉が憲法28条により正当化されるか。
規範
憲法28条が保障する団体交渉権または団体行動権の行使であっても、その手段・方法が社会通念の許容する範囲を逸脱する場合には、正当な権利行使として法律上または憲法上の保護を受けることはできない。
重要事実
岡山県知事は、失業対策事業の指導調整権者として、かつ県営事業の事業主体の長として、短時間就労の是正等を指示・通知する通達を出した。労働組合側は、この通達に関する交渉を求めたが、多数の勢威を背景に実力を行使して知事に詰め寄り、退去要求に従わなかったため、不退去罪等で起訴された。
あてはめ
本件通達の内容は日雇労働者の労働条件に関する事項であり、知事にはその是正時期等に裁量があるため、県営事業の就労者との関係では使用者に対する団体交渉の申入れといえる。しかし、被告人らは「多数の勢威を背景に実力を行使して」交渉を迫っており、その手段・方法は社会通念に照らして正当な範囲内にあるとはいえない。したがって、本件退去要求は適法である。
結論
被告人らの行為は正当な権利行使の範囲を逸脱しており、不退去罪等の成立を認めた原判決の結論は正当である。
実務上の射程
行政庁が「使用者」の地位を兼ねる場合の団体交渉の成否と、労働基本権の行使であっても手段の相当性を欠けば刑事罰を免れない(正当業務行為性を欠く)ことを示す射程を持つ。刑法35条の正当性判断の基準として答案で使用する。
事件番号: 昭和25(あ)2771 / 裁判年月日: 昭和27年3月11日 / 結論: 棄却
憲法二八条の趣旨は、昭和二二年(れ)第三一九号同二四年五月一八日大法廷判決に示すとおりであつて、その団結権乃至団体行動権の保障を拡張して本件のように酒税法違反被疑事件一斉検挙の際押収された密造用器物返還などの要求貫徹のため蝟集した朝鮮人の団体(被告人は、その交渉委員である)と、その交渉の相手方たる税務署長との関係にまで…
事件番号: 昭和42(あ)472 / 裁判年月日: 昭和43年7月12日 / 結論: 棄却
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