交通違反取締中の警察官が、信号無視の自動車を現認しこれを停車させた際、下車した運転者が酒臭をさせており、酒気帯び運転の疑いが生じたため、酒気の検知をする旨告げたところ、同人が、警察官が提示を受けて持つていた運転免許証を奪い取り、自動車に乗り込んで発進させようとしたなど判示の事実関係のもとでは、警察官が自動車の窓から手を差し入れエンジンキーを回転してスイツチを切り運転を制止した行為は、警察官職務執行法二条一項及び道路交通法六七条三項の規定に基づく職務の執行として適法である。
職務質問及び交通の危険防止のため自動車の窓から手を差し入れエンジンキーを回転してスイツチを切り運転を制止した警察官の行為が適法とされた事例
刑法95条1項,警察官職務執行法2条1項,道路交通法67条3項
判旨
警察官が酒気帯び運転の疑いある者が車両を発進させようとした際、窓から手を入れエンジンキーを切った行為は、警職法2条1項の職務質問のための停止措置として必要かつ相当であり、かつ道交法67条3項の応急措置にも当たるため、公務執行妨害罪の客体となる適法な職務執行である。
問題の所在(論点)
警察官が、酒気帯び運転をしようとする者の車両のエンジンキーを切って制止した行為が、刑法95条1項にいう「職務の執行」として適法といえるか。
規範
1. 警察官職務執行法2条1項に基づく職務質問を行うための停止措置は、その目的を達成するために必要かつ相当な範囲内であれば適法である。 2. 道路交通法67条3項に基づき、運転者が酒気帯び運転をするおそれがある場合、交通の危険を防止するために必要な応急の措置をとることは適法な職務執行にあたる。
重要事実
被告人は赤信号無視で停車を求められ、免許証提示後にパトロールカーへの同行を求められたが拒否した。その際、被告人から酒臭がしたため巡査が酒気検知を求めたところ、被告人は反抗的態度を示して免許証を奪い取り、エンジンがかかった車両の運転席に乗り込み、ギア操作をして発進させようとした。これに対し、同行していた別の巡査が、窓から手を差し入れてエンジンキーを回し、スイッチを切って運転を制止した。
事件番号: 昭和52(あ)1706 / 裁判年月日: 昭和53年10月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】呼気検査が強制にわたるものではなく、かつ派出所への同行が任意捜査の域を超えない場合には、当該捜査は適法である。 第1 事案の概要:被告人Aに対し、警察官が酒気帯び運転の疑いで呼気検査を実施した。また、その際、被告人を派出所まで同行させた。弁護人は、これらの行為が強制捜査に該当し、憲法31条および3…
あてはめ
被告人には信号無視の事実があり、かつ至近距離で酒臭が確認されたことから、酒気帯び運転の合理的疑いがあった。被告人が免許証を奪い返して車両を発進させようとした状況下では、そのまま放置すれば重大な交通上の危険が生じる蓋然性が高かったといえる。したがって、巡査が窓から手を差し入れてエンジンキーを切った行為は、職務質問を継続するために停止させる方法として必要かつ相当な限度にとどまる(警職法2条1項)。また、酒気帯び運転による交通の危険を防止するための「必要な応急の措置」(道交法67条3項)としての要件も満たす。
結論
当該警察官の行為は適法な職務執行に当たり、これに抵抗する行為は公務執行妨害罪を構成する。
実務上の射程
任意捜査(職務質問)に付随する強制にわたらない有形力の行使の限界を示す判例である。特に、飲酒運転の危険が目前に迫っているという緊急性の高い局面において、車両の停止を維持するための物理的措置(エンジン停止)が「必要かつ相当」として肯定される。答案上では、警職法2条1項の停止措置の適法性判断、および道交法の個別規定に基づく適法性を重畳的に論じる際に活用できる。
事件番号: 昭和50(あ)146 / 裁判年月日: 昭和51年3月16日 / 結論: 棄却
一 任意捜査における有形力の行使は、強制手段、すなわち個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段にわたらない限り、必要性、緊急性などをも考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において、許容される。 二 警察官が…
事件番号: 昭和26(れ)242 / 裁判年月日: 昭和26年9月27日 / 結論: 棄却
濁酒の醸造量はその仕込原料よりも減少することが経験則に合致する。
事件番号: 昭和49(あ)1506 / 裁判年月日: 昭和50年11月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】鉄道営業法42条に基づく鉄道係員の排除権限は、違反行為の態様・程度に照らし真にやむを得ない場合に必要最小限度の有形力行使を含むが、身体に対する直接の実力行使(強制)までは原則として許されない。もっとも、人体で人垣を作り対象者を押し下げる程度の行為は、積極的な直接の実力行使に当たらず、同条に基づく適…