一 数人共同して二人以上に対しそれぞれ暴行を加え、一部の者に傷害を負わせた場合には、傷害を受けた者の数だけの傷害罪と暴行を受けるにとどまつた者の数だけの暴力行為等処罰に関する法律一条の罪が成立し、以上は併合罪として処断すべきである。 二 裁判所は、訴因により公訴事実が十分に明確にされていて被告人の防禦に実質的な不利益が生じない限りは、罰条変更の手続を経ないで、起訴状に記載されていない罰条を適用することができる。 三 暴力行為等処罰に関する法律一条の罪にあたる事実が訴因によつて十分に明示されている場合には、裁判所は、起訴状に記載された刑法二〇八条の罰条を変更させる手続を経ないで、右法律一条を適用することができる。
一 数人共同して二人以上に対しそれぞれ暴行を加え一部の者に傷害を負わせた場合の罪数 二 起訴状に記載されていない罰条の適用 三 起訴状に記載されていない罰条の適用が許されるとされた事例
暴力行為等処罰に関する法律1条,刑法45条,刑法204条,刑訴法256条,刑訴法312条
判旨
起訴状に記載のない罰条であっても、訴因により公訴事実が十分に明確化されており、被告人の防御に実質的な不利益が生じない限り、罰条変更手続を経ずに適用できる。本件では暴力行為法1条の事実が訴因に含まれていたため、同条の適用は適法とされた。
問題の所在(論点)
裁判所が、起訴状に記載されていない罰条を、刑事訴訟法312条1項の訴因・罰条変更手続を経ることなく適用することは許されるか。特に、訴因に含まれる事実関係から導かれる別罰条の適用の可否が問題となる。
規範
起訴状の罰条記載は、訴因を特定し防御を全うさせるための要請であり、裁判所の法令適用を拘束するものではない。したがって、訴因によって公訴事実が十分に明確にされており、被告人の防御に実質的な不利益が生じない限り、裁判所は罰条変更手続(刑事訴訟法312条1項)を経ることなく、記載のない罰条を適用することができる。
事件番号: 昭和42(あ)2277 / 裁判年月日: 昭和43年7月16日 / 結論: 棄却
被告人らが、共謀のうえ、甲らに危害を加える目的をもつて、猟銃、日本刀等の兇器を準備し、または準備のあることを知つて、某所に集合したという兇器準備集合の所為と、その集合の直後、集合場所付近において、甲の身体を手拳で殴打し、足蹴にするなどし、かつ、甲に対し「横着だぞ」等と怒号し、もつて数人共同し、多衆の威力を示して暴行、脅…
重要事実
被告人らは、共謀の上、4名の被害者に対し殴る蹴るの暴行を加え、うち3名に傷害を負わせた。検察官は「傷害、暴行(刑法204条、208条、60条)」を罰条として起訴した。第1審は暴行罪の対象者1名を含む事実を認定しつつ、罰条として刑法204条(傷害罪)のみを適用した。これに対し原審は、当該暴行事実は暴力行為等処罰に関する法律1条(暴力行為法)に該当すると判断し、罰条変更の手続を経ずに同条を適用して自判した。
あてはめ
本件訴因には、傷害に至らなかった被害者Eに対する暴行の事実も明記されており、これに対応する罰条として暴力行為法1条が適用されるべき事案であった。この暴力行為法1条の罪にあたる事実は訴因によって具体的に明示されている。したがって、被告人は当該事実について防御を尽くす機会が保障されており、記載された刑法208条(暴行罪)から暴力行為法1条への変更手続を経なかったとしても、被告人の防御に実質的な不利益が生じたとはいえない。
結論
被告人の防御に実質的不利益がない限り、罰条変更手続を経ずに記載外の罰条を適用することは適法である。原審が暴力行為法1条を適用した判断は正当である。
実務上の射程
訴因(事実)が固定されていることを前提に、法律的評価(罰条)のみを変更する場合の限界を示した判例である。実務上、事実関係に変動がなく防御の対象が明確であれば、罰条の追加・変更手続は必須ではないが、罰条の変更により法定刑が著しく重くなるなど、防御の態様に変化が生じる場合には実質的不利益が認められ、手続が必要となる可能性がある点に注意を要する。
事件番号: 昭和47(あ)159 / 裁判年月日: 昭和48年2月8日 / 結論: 棄却
被告人が、甲ほか一一名と共謀のうえ、乙らに危害を加える目的をもつて、某日午後一一時頃から翌日午前二時三〇分頃までの間、某市内の乙方およびその付近路上ならびに同市内の甲方において猟銃、日本刀、包丁等の兇器を準備し、またはその準備のあることを知つて集合したという兇器準備集合の罪と、右某日午後一一時頃乙方において乙に対し所携…
事件番号: 昭和43(あ)1009 / 裁判年月日: 昭和45年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共同正犯の訴因に対し、被告人が共同正犯の成立を争い外形上幇助にすぎない旨を主張している場合には、訴因変更手続を経ることなく幇助犯を認定しても適法である。 第1 事案の概要:被告人らは、共謀共同正犯の訴因で起訴された。これに対し被告人側は、共同正犯としての関与を否定し、外形上は幇助にすぎない事実を主…
事件番号: 昭和51(あ)671 / 裁判年月日: 昭和52年7月21日 / 結論: 棄却
刑法三六条における侵害の急迫性は、当然又はほとんど確実に侵害が予期されただけで失われるものではないが、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは失われることになる。
事件番号: 昭和52(あ)2113 / 裁判年月日: 昭和54年4月13日 / 結論: 棄却
暴行・傷害を共謀した共犯者のうちの一人が殺人罪を犯した場合、殺意のなかつた他の共犯者については、傷害致死罪の共同正犯が成立する。