偽造にかかる自動車運転免許証表示の有効期間が三ケ月余経過した時点であつても、警察官をして、真正に作成され、かつ、被告人が自動車運転免許を受けたものであると誤信させるに足りる外観を具備していると認められる本件免許証の提示行為は、偽造公文書の行使にあたる。
偽造公文書行使罪が成立するとされた事例
刑法158条1項
判旨
有効期間を3か月余経過した偽造運転免許証を警察官に提示した行為について、当該免許証が真正に作成され、提示者が運転免許を受けたものであると誤信させるに足りる外観を具備していれば、偽造公文書行使罪が成立する。
問題の所在(論点)
有効期間を3か月余経過した偽造運転免許証を提示する行為が、偽造公文書行使罪(刑法158条1項)にいう「行使」に該当するか。特に、形式的に効力を失っている文書であっても「行使」の客体となり得るかが問題となる。
規範
偽造公文書行使罪(刑法158条1項)における「行使」とは、偽造された文書を真正なものとして、または内容が真実であるものとして他人に提示し、若しくは閲覧可能な状態に置くことをいう。その際、当該文書が有効期間を経過していたとしても、その文書自体が真正に作成されたものであり、かつ、その記載内容(資格等)が真実であると誤信させるに足りる外観を具備している場合には、行使にあたるものと解される。
重要事実
被告人は、他人の自動車運転免許証の写真を自己のものに貼り替えて偽造した。その後、交通取締中の警察官に対し、当該偽造免許証を提示した。当時、当該免許証に表示された有効期間は既に3か月余り経過しており、提示を受けた警察官も直ちにその事実に気付いた。しかし、警察官は、免許証自体は真正に作成されたものであり、被告人が正当に運転免許を受けた本人であると誤信し、無免許運転の取調べを開始した。
あてはめ
本件偽造運転免許証は、有効期間を3か月余り経過していたものの、それ自体は公安委員会によって真正に作成された文書であるとの外観を維持していた。警察官において、有効期間の徒過には気付いたものの、被告人が過去に正当な免許交付を受けた本人であると誤信させるに足りる外観を具備していたといえる。現に警察官は、被告人を免許取得者であると誤信して取調べを行っており、文書に対する公共の信用を害する危険性が認められる。したがって、有効期間経過後であっても、なお真正な文書として提示したものと評価できる。
結論
有効期間を徒過した偽造免許証の提示であっても、真正な免許証であると誤信させるに足りる外観を有する限り、偽造公文書行使罪が成立する。
実務上の射程
文書の「有効期限」が切れている場合であっても、その文書が証明しようとする事実(過去の資格取得等)について公共の信用を害する蓋然性があれば、行使罪の成立を肯定する。答案上は、行使の定義を述べた上で、有効期限切れという事情が「真正なものとして用いる」ことの妨げにならないことを、本判例のロジック(誤信させるに足りる外観の有無)を用いて論じるべきである。
事件番号: 昭和43(あ)1651 / 裁判年月日: 昭和44年6月18日 / 結論: 破棄差戻
一 牽連犯を構成する手段となる犯罪と結果となる犯罪との中間に別罪の確定裁判が介在する場合においても、なお刑法五四条の適用がある。 二 自動車を運転する際に偽造にかかる運転免許証を携帯しているに止まる場合には、偽造公文書行使罪を構成しない。
事件番号: 昭和39(あ)273 / 裁判年月日: 昭和39年6月11日 / 結論: 棄却
一 第一審判決判示第一前段の被告人の所為が有印公文書偽造罪にあたるとした原判決の判断は正当である。 二 (第一審判決判示第一前段の要旨)被告人は昭和三四年一二月八日付神奈川県公安委員会がAに発行した小型自動四倫運輪免許一通をほしいままに、同免許証の氏名欄の「A」、生年月日欄の「大正15・11・19」、本籍欄の「栃木県真…
事件番号: 昭和34(あ)1848 / 裁判年月日: 昭和35年1月12日 / 結論: 棄却
特定人に交付された自動車運転免許証に貼付してある写真をほしいままに剥ぎとり、その特定人と異る他人の写真を貼り代え、生年月日欄の数字を改ざんし全く別個の新たな免許証としたときは、公文書偽造罪が成立する。
事件番号: 昭和55(あ)1858 / 裁判年月日: 昭和56年4月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】作成権限のない者が他人の名義を冒用して文書を作成する行為は、たとえその内容が真実であっても、文書の成立の真正を偽るものとして有印私文書偽造罪(刑法159条1項)が成立する。 第1 事案の概要:本件において、被告人は、正当な作成権限を有していないにもかかわらず、他人の氏名(有印)を用いて私文書を作成…