一 牽連犯を構成する手段となる犯罪と結果となる犯罪との中間に別罪の確定裁判が介在する場合においても、なお刑法五四条の適用がある。 二 自動車を運転する際に偽造にかかる運転免許証を携帯しているに止まる場合には、偽造公文書行使罪を構成しない。
一 牽連犯を構成する二罪の中間に別罪の確定裁判が介在する場合と刑法五四条の適用 二 偽造運転免許証の携帯運転と偽造公文書行使罪の成否
刑法45条,刑法54条1項,刑法158条,刑法155条,道路交通法95条
判旨
牽連犯を構成する手段と結果の犯罪間に別罪の確定裁判が介在する場合でも科刑上一罪として扱われる。一方、偽造公文書行使罪の「行使」には単なる携帯は含まれず、他人が内容を認識し得る状態に置くことを要する。
問題の所在(論点)
1. 牽連犯の関係にある数罪の中間に別罪の確定裁判が介在する場合、刑法54条1項後段の適用が排除されるか。 2. 自動車運転に際し偽造運転免許証を単に携帯する行為は、偽造公文書行使罪の「行使」にあたるか。
規範
1. 牽連犯(刑法54条1項後段)は、手段または結果の関係にある数罪を科刑上特に一罪として扱うものであり、その間に別罪の確定裁判が介在する場合であっても、なお同条の適用がある。 2. 偽造公文書行使罪(刑法158条1項)にいう「行使」とは、文書を真正に成立したものとして他人に交付・提示等し、その閲覧に供して内容を認識させ、または認識し得る状態に置くことをいう。
重要事実
被告人は、昭和40年に大型自動車運転免許証を偽造した。その後、昭和41年に別件の窃盗等の罪で懲役1年の確定判決を受けた。刑期終了後の昭和42年、タクシー運転手として営業用普通自動車を運転する際、偽造した免許証を計19回にわたり携帯していた。一審・二審は、偽造罪と行使罪を牽連犯とし、確定判決の介在にかかわらず科刑上一罪と認めた上で、免許証の携帯自体を行使罪の成立と認めて有罪とした。
事件番号: 昭和42(あ)2556 / 裁判年月日: 昭和44年7月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】牽連犯(刑法54条1項後段)を構成する「手段」となる犯罪と「結果」となる犯罪の中間に、別罪の確定裁判が介在する場合であっても、なお刑法54条1項後段が適用され、牽連犯が成立する。 第1 事案の概要:被告人は、昭和42年1月17日ころ、有印公文書である自動車運転免許証1通を偽造した(公文書偽造罪)。…
あてはめ
1. 牽連犯は科刑上の一罪として本来の一罪と同様に扱われるため、刑法45条(併合罪)の規定にかかわらず、確定裁判の介在によってその一罪性が失われることはない。 2. 公文書行使罪は公文書の真正に対する公共の信用の侵害を防止するものである。本件被告人は運転に際し免許証を「携帯」していたに過ぎない。たとえ提示義務があるとしても、実際に他人の閲覧に供し内容を認識し得る状態に置かない限り、公共の信用を具体的に侵害する「行使」があったとはいえない。
結論
1. 牽連犯の中間に確定裁判が介在しても、なお科刑上一罪として処断される。 2. 偽造運転免許証を単に携帯する行為は、偽造公文書行使罪を構成しない。
実務上の射程
答案では、偽造罪と行使罪が牽連犯(刑法54条1項後段)になること、および行使の定義(認識し得る状態に置くこと)を論じる際に不可欠な判例である。また、併合罪(45条)の処理において確定裁判の介在が牽連犯に影響しない点は、罪数論の重要論点として位置づけられる。
事件番号: 昭和43(あ)1139 / 裁判年月日: 昭和44年9月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】牽連犯の関係にある手段となる罪と結果となる罪の中間に別罪の確定裁判が介在する場合であっても、刑法54条1項後段の適用が妨げられることはない。 第1 事案の概要:被告人は、昭和41年10月28日ころに運転免許証を偽造し(判示第一)、その後、昭和42年4月28日に当該偽造免許証を呈示した(判示第二)。…
事件番号: 昭和51(あ)1689 / 裁判年月日: 昭和52年4月25日 / 結論: 棄却
偽造にかかる自動車運転免許証表示の有効期間が三ケ月余経過した時点であつても、警察官をして、真正に作成され、かつ、被告人が自動車運転免許を受けたものであると誤信させるに足りる外観を具備していると認められる本件免許証の提示行為は、偽造公文書の行使にあたる。
事件番号: 昭和54(あ)1613 / 裁判年月日: 昭和56年4月8日 / 結論: 棄却
交通反則切符中の供述書を他人の名義で作成した場合は、あらかじめその他人の承諾を得ていたとしても、私文書偽造罪が成立する。