一 偽造にかかる公安委員会作成名義の運転免許証を携帯して自動車を運転した場合は、偽造公文書行使罪が成立する。 二 垂水裁判官の少数意見 三 たとえ法令上自動車を運転する場合に運転免許証を携帯すべき義務ある場合であつても、運転者が運転の際、偽造の運転免許証を単にポケツトまたは自動社内に携帯所蔵しているだけでは、未だもつて他人が随時これを真正な文書として閲覧できる状態においたものというに足りない。他人に対する外部的行為がないのであるから、これを原判示のように偽造免許証(有印公文書)の行使罪に当るものということはできない。被告人の判示所為は罪とならない。
偽造運転免許証行使罪の成立する事例。
刑法158条,刑法155条,道路交通取締法9条3号,道路交通法95条
判旨
偽造有印公文書行使罪における「行使」とは、偽造文書を真正に成立したものとして他人に閲覧し得る状態に置く外部的行為を指し、法令上の携帯義務があるとしても単なる携帯・所蔵だけでは「行使」に該当しない。
問題の所在(論点)
法令上、運転免許証の携帯義務が課されている場合において、偽造された免許証を単に携帯・所蔵して自動車を運転する行為が、刑法158条1項の「行使」に該当するか。
規範
偽造有印公文書行使罪(刑法158条1項)にいう「行使」とは、偽造された文書を、その情を知りながら真正に成立したものとして使用することをいう。具体的には、偽造文書を他人(特定・不特定を問わない)に対して閲覧し得る状態に置く「外部的行為」があることを要する。いわゆる「備付行使」が認められるのは、法令や実例に基づき随時閲覧可能な状態で備え付けられた場合に限られる。
重要事実
被告人は、情を知って偽造された山形県公安委員会作成名義の自動三輪車運転免許証をポケットまたは自動車内に携帯し、自動車を運転した。法令上、運転時には免許証を携帯する義務があるが、被告人は当該偽造免許証を他人に提示したり、外部から容易に視認できる状態で掲示したりしたわけではなく、単に所蔵して運転を継続していたに過ぎなかった。
事件番号: 昭和43(あ)1651 / 裁判年月日: 昭和44年6月18日 / 結論: 破棄差戻
一 牽連犯を構成する手段となる犯罪と結果となる犯罪との中間に別罪の確定裁判が介在する場合においても、なお刑法五四条の適用がある。 二 自動車を運転する際に偽造にかかる運転免許証を携帯しているに止まる場合には、偽造公文書行使罪を構成しない。
あてはめ
偽造文書の行使罪が成立するためには、文書を真正なものとして他人の認識に供し得る状態に置くという外部的な働きかけが必要である。本件において、被告人が偽造免許証をポケット等に所蔵して運転していた行為は、単なる内部的な所持にとどまる。法令上の携帯義務があるとしても、警察官等から提示を求められるなどの具体的事態が生じない限り、他人が随時これを真正な文書として閲覧できる状態に置いた(外部的行為があった)とは評価できない。
結論
偽造運転免許証を単に携帯して自動車を運転する行為は、偽造有印公文書行使罪を構成しない。
実務上の射程
本件は少数意見において詳しく説示されているが、通説・実務の理解を支える重要な基準となっている。答案上は、行使の定義を「真正なものとして使用すること(閲覧可能な状態に置くこと)」とした上で、単なる「携帯」や「所持」は外部的行為を欠くため行使にあたらないという論理構成で活用する。
事件番号: 昭和51(あ)1689 / 裁判年月日: 昭和52年4月25日 / 結論: 棄却
偽造にかかる自動車運転免許証表示の有効期間が三ケ月余経過した時点であつても、警察官をして、真正に作成され、かつ、被告人が自動車運転免許を受けたものであると誤信させるに足りる外観を具備していると認められる本件免許証の提示行為は、偽造公文書の行使にあたる。
事件番号: 昭和39(あ)273 / 裁判年月日: 昭和39年6月11日 / 結論: 棄却
一 第一審判決判示第一前段の被告人の所為が有印公文書偽造罪にあたるとした原判決の判断は正当である。 二 (第一審判決判示第一前段の要旨)被告人は昭和三四年一二月八日付神奈川県公安委員会がAに発行した小型自動四倫運輪免許一通をほしいままに、同免許証の氏名欄の「A」、生年月日欄の「大正15・11・19」、本籍欄の「栃木県真…
事件番号: 昭和29(あ)3426 / 裁判年月日: 昭和32年11月29日 / 結論: 棄却
所論指示書と題する文書の内容文言が、たとえ被告人以外の者の手で既に記載されてあつた場合であつても、それが無権限者によつてなされたものであり、且つa地方事務所長たる記名職印が施されてはじめて効用ある文書として完成するものであると認められる以上、行使の目的をもつて右文言の書面に無権限に右事務所長名の記名ゴム印及びその職印を…
事件番号: 昭和34(あ)1848 / 裁判年月日: 昭和35年1月12日 / 結論: 棄却
特定人に交付された自動車運転免許証に貼付してある写真をほしいままに剥ぎとり、その特定人と異る他人の写真を貼り代え、生年月日欄の数字を改ざんし全く別個の新たな免許証としたときは、公文書偽造罪が成立する。