売春防止法一〇条にいう「人に売春をさせることを内容とする契約」は、他人に売春をさせることを内容とする契約であれば足り、売春が婦女の自由意思による場合をも含む。
売春防止法一〇条の法意
売春防止法1条,売春防止法10条
判旨
売春防止法10条にいう「人に売春をさせることを内容とする契約」とは、他人に売春をさせることを内容とする契約であれば足り、売春をする者の自由意思に基づく場合であっても成立する。
問題の所在(論点)
売春防止法10条1項にいう「人に売春をさせることを内容とする契約」の成立に、売春をする者の自由意思が制約されていること(拘束・強制の存在)が必要か。
規範
売春防止法10条の処罰目的は、同法1条の趣旨に照らし、売春を助長する行為そのものを処罰することにある。したがって、同条にいう「人に売春をさせることを内容とする契約」は、対象者が身体的・精神的に拘束されている必要はなく、他人に売春をさせることを内容とする契約であれば足りる。売春が婦女の自由意思による場合であっても、同条の契約に含まれると解すべきである。
重要事実
被告人が、婦女との間で売春をさせることを内容とする契約を締結したとして、売春防止法10条違反(売春契約罪)で起訴された。弁護人は、昭和22年勅令9号(婦女に売淫をさせた者等の処罰に関する勅令)2条の解釈に関する判例を引用し、本条の契約も、婦女を拘束・強制して個人的自由を阻害するような結果を招来するものでなければならないと主張した。
あてはめ
旧勅令2条は、婦女を束縛又は強制して売淫をさせる結果を招来し、婦女の個人的自由の伸張を阻害するような行為を処罰することを主眼としていた。これに対し、売春防止法は、売春が性道徳に反し、人権を侵害するものであることに鑑み、売春を助長する行為を広く処罰することを目的としている(同法1条)。したがって、対象となる婦女が自らの意思で売春を行うことに同意し、契約を締結した場合であっても、売春を助長する契約である以上、同法10条の構成要件に該当するといえる。
結論
売春が婦女の自由意思による場合であっても、売春防止法10条にいう「売春をさせることを内容とする契約」に該当する。
実務上の射程
売春防止法の目的が「個人の自由の保護」のみならず「社会的な売春助長の防止」にあることを示す。答案上では、売春契約罪の成立要件において、相手方の任意性の有無が犯罪の成否に影響しないことを論証する際に使用する。性犯罪における「自由意思」の有無が論点となる他罪(刑法上の不同意性交等罪等)との構成の違いを意識する際の比較対象としても有用である。
事件番号: 昭和37(あ)273 / 裁判年月日: 昭和39年6月16日 / 結論: 棄却
弁護人の上告趣意は、憲法第一四条違反をいうが、売春防止法第一二条の規定は、同条に該当する行為をした者は何人であつてもその罪責を問う趣旨であつて、その行為者の人種、信条、性別、社会的身分又は門地によつて差別的な取扱いをしているものではないから、右違憲の主張は前提を欠き、採るをえない。