人を熊と誤認して猟銃を二発発射し下腹部等に命中させて瀕死の重傷を負わせたという業務上過失傷害の罪と、誤射に気がつき殺意をいだいてさらに猟銃を一発発射し胸部等に命中させて即死させたという殺人の罪とは、併合罪の関係にある。
業務上過失傷害罪と殺人罪とが併合罪の関係にあるとされた事例
刑法45条,刑法199条,刑法211条前段
判旨
業務上過失傷害罪と殺人罪は、責任条件を異にする関係にあるため、併合罪(刑法45条前段)の関係に立つ。
問題の所在(論点)
先行する過失行為によって傷害を負わせた後、同一の被害者に対して後行の故意行為によって殺害を試みた場合、業務上過失傷害罪と殺人罪の罪数はどのように解すべきか。
規範
同一の被害者に対する異なる態様の行為が連続して行われた場合であっても、過失犯(業務上過失傷害罪)と故意犯(殺人罪)のように責任条件を異にする罪名については、各罪が独立して成立し、併合罪として処理すべきである。
重要事実
被告人が業務上の過失により被害者に傷害を負わせた(業務上過失傷害罪)。その後、被告人は同一の被害者に対し、殺意をもって殺害行為に及んだ(殺人罪)。原審はこれらの罪数を併合罪と判断し、最高裁もその結論を正当とした。
あてはめ
本件において、被告人はまず業務上の過失により被害者を負傷させており、この時点で業務上過失傷害罪の構成要件に該当する。その後、別個の心理状態である「殺意」に基づき殺害行為に及んでいる。これらは過失と故意という相容れない責任条件に基づく行為であり、先行行為が後行の殺人罪に吸収されることも、一連の行為として一罪となることもない。したがって、両罪は別個独立に成立すると解される。
結論
業務上過失傷害罪と殺人罪は、責任条件を異にするため併合罪となる。
実務上の射程
同一被害者に対する過失行為と故意行為が連続した場合の罪数関係を決定する基準として機能する。答案上は、過失犯の成立を認めた後、後行の故意犯との間に「実行行為の別」や「責任条件の差異」を指摘し、刑法45条前段の併合罪として処理する際の根拠となる。
事件番号: 昭和43(あ)917 / 裁判年月日: 昭和45年3月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上過失致死傷罪と道路交通法の酒気帯び運転の罪とは、1つの運転行為に付随するものであっても、併合罪(刑法45条)の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人が、酒気を帯びた状態で車両を運転し、その走行中に業務上の注意義務を怠ったことにより、人を負傷させる事故(業務上過失傷害)を起こした事案。弁護人は…
事件番号: 昭和32(あ)2377 / 裁判年月日: 昭和33年4月10日 / 結論: 棄却
一個の道路交通取締法違反(居眠り運転)行為と二個の刑法第二一一条にあたる行為とがそれぞれ想像的競合犯の関係にある本件の場合には、刑法第五四条第一項前段第一〇条を適用し一罪としてその最も重い刑に従い処断すべきものである
事件番号: 昭和40(あ)2793 / 裁判年月日: 昭和41年7月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】道路交通法72条1項前段の救護義務違反と、同項後段の報告義務違反は、併合罪(刑法45条)の関係に立つ。また、酒酔い運転の罪と業務上過失傷害の罪も、併合罪として処断されるのが相当である。 第1 事案の概要:被告人は酒酔い状態で車両を運転し、業務上の過失により他人に傷害を負わせた(業務上過失傷害)。そ…