運転技術が未熟でありしかも酒酔いのため自動車の運転を避けるべき注意義務があるのにこれを怠り、あえて運転を開始した重大な過失により、運転開始後約一〇〇メートル進行した地点で酒の酔いと運転技術未熟のため的確なハンドル操作ができず衝突事故を起こし同乗車に傷害を負わせた場合、道路交通法六五条一項、一一七条の二第一号の酒酔い運転の所為と重過失傷害の所為とは、併合罪の関係にある。
道路交通法六五条一項、一一七条の二第一号の酒酔い運転の所為と運転開始直後の重過失傷害の所為とが併合罪とされた事例
道路交通法65条1項,道路交通法117条の2第1号,刑法211条後段,刑法45条
判旨
酒酔い状態で運転を開始し、約100メートル進行した地点でハンドル操作を誤り事故を起こした場合、酒酔い運転の罪と重過失傷害の罪は、観念的競合ではなく併合罪の関係にある。
問題の所在(論点)
酒酔い状態で運転を開始し、その後事故を起こして人を死傷させた場合、道路交通法違反(酒酔い運転)と重過失致死傷罪(当時の刑法)の罪数は、観念的競合(54条1項前段)となるか、それとも併合罪(45条前段)となるか。
規範
刑法54条1項前段の「一個の行為」とは、自然的観察において1つの行為と評価されるものを指す。他方、各罪の構成要件的行為が重なり合わず、時間的・空間的な隔たりがある場合には、併合罪(刑法45条前段)として処理される。
重要事実
被告人は、運転技術が未熟であり、かつ酒酔い状態にあって運転を控えるべき注意義務があったにもかかわらず、あえて自動車の運転を開始した。運転開始から約100メートル進行した地点において、酒の酔いと運転技術未熟が原因で的確なハンドル操作ができず、自車を道路右側のブロック塀等に衝突させた。その結果、同乗者3名に傷害を負わせるに至った。
事件番号: 昭和50(あ)949 / 裁判年月日: 昭和50年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】酒酔い運転の罪と業務上過失致死傷罪は、前者が後者の実行行為を包含する関係にあるため、刑法54条1項前段の観念的競合となる。一方で、無免許運転の罪とこれらの罪は、別個の独立した行為と解されるため、併合罪(同法45条前段)の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人は、酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔…
あてはめ
酒酔い運転の罪は、酒に酔った状態で車両を運転し始めた時点で成立し、運転を継続する間その状態が継続する。これに対し、本件の重過失傷害罪は、運転開始から約100メートル進行した後のハンドル操作ミスという特定の過失行為によって発生している。運転開始という行為と、その後の操縦誤りという行為は、自然的観察において別個の行為と評価される。したがって、これらは「一個の行為」には当たらず、構成要件的行為の一部が重なり合う関係にもない。
結論
酒酔い運転の罪と重過失傷害の罪は、刑法45条前段の併合罪の関係にある。
実務上の射程
本判決は、酒酔い運転と交通事故による死傷罪の罪数関係について併合罪説を採ることを明確にしたものである。答案作成上は、単に「酒酔い状態で運転した」という点だけでなく、事故の原因となった具体的な過失(ハンドル操作不適当等)を特定し、運転開始行為とは別個の実行行為であることを指摘して併合罪と導くべきである。
事件番号: 昭和45(あ)2554 / 裁判年月日: 昭和46年6月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】酒酔い運転の罪と業務上過失傷害罪との罪数関係につき、前者の実行行為たる自動車の運転行為自体が後者の注意義務違反(過失)の内容をなす場合には、刑法54条1項前段により観念的競合と解すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、飲酒により正常な運転ができないおそれがある状態で普通乗用自動車を運転した(酒…
事件番号: 昭和48(あ)1969 / 裁判年月日: 昭和50年2月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】酒酔い運転の罪と、その運転中に行われた業務上過失致死傷の罪とは、一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合として、観念的競合(刑法54条1項前段)の関係に立つ。 第1 事案の概要:被告人は、酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔い運転)、その運転継続中に注意義務を怠って人身事故を起こし、他者に傷害を負わ…
事件番号: 昭和48(あ)2132 / 裁判年月日: 昭和49年1月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上過失傷害罪と酒酔い運転の罪は、一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合に該当し、刑法54条1項前段により観念的競合の関係にある。被告人に不利益な変更を求める上告趣意は不適法として退けられる。 第1 事案の概要:被告人は酒に酔った状態で自動車を運転し(酒酔い運転)、その運転走行中に注意義務を怠っ…
事件番号: 昭和46(あ)1590 / 裁判年月日: 昭和49年5月29日 / 結論: 棄却
同一の日時場所において、無免許で、かつ、酒に酔つた状態で自動車を運転する所為は、道路交通法一一八条一項一号、六四条の罪と同法一一七条の二第一号、六五条一項の罪との観念的競合の関係にある。