いわゆる必要的弁護事件につき被告人が控訴した場合において、刑訴規則二五〇条により控訴の審判に準用される同規則一七八条三項の規定に違背して被告人に弁護人がないままであるときは、所定の期間内に控訴趣意書を差し出さないことに基づき刑訴法三八六条一項一号により決定で右控訴を棄却することは許されない。
必要的弁護事件の控訴と刑訴法三八六条一項一号による決定棄却
刑訴法289条1項,刑訴法386条1項1号,刑訴規則178条
判旨
必要的弁護事件の控訴審において、裁判長が刑訴規則178条3項所定の国選弁護人選任等の措置を講じないまま、控訴趣意書の提出がないことを理由に控訴棄却の決定をすることは、刑訴法289条1項(404条による準用)に違反し許されない。
問題の所在(論点)
必要的弁護事件において、裁判長が規則上の国選弁護人選任義務を履行せず、被告人に弁護人が不在の状態のまま控訴趣意書未提出を理由に控訴棄却決定をすることは、刑訴法289条1項(必要的弁護)に照らして許されるか。
規範
刑訴規則250条により準用される同規則178条3項の結果、刑訴法289条1項前段の事件(必要的弁護事件)については、所定期間内に弁護人選任照会への回答がなく弁護人の選任もないときは、裁判長は直ちに国選弁護人を選任しなければならない。この措置を怠り、被告人に弁護人がないまま控訴趣意書の不提出を理由として刑訴法386条1項1号により控訴を棄却することは、弁護人がなければ開廷できないとする同法289条1項の趣旨に反し、許されない。
重要事実
傷害被告事件(懲役1年6月の実刑判決)につき控訴した申立人に対し、控訴裁判所は弁護人選任の照会(回答期限5月19日)および控訴趣意書の差出期間(最終日6月19日)を通知した。申立人は期限内に回答も私選弁護人の選任もしなかったが、裁判長は国選弁護人の選任を行わなかった。申立人は最終日までに控訴趣意書を提出せず、その翌日に私選弁護人名義の控訴趣意書が提出され、数日後に弁護人選任届が出された。控訴裁判所は、提出遅延にやむを得ない事情がないとして控訴棄却の決定をした。
事件番号: 昭和43(し)82 / 裁判年月日: 昭和44年3月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】必要的弁護事件であっても、裁判所が被告人に弁護人を選任する機会を与え、その行使を妨げていないのであれば、控訴趣意書の差出最終日までに弁護人が選任されなかったとしても憲法37条3項に違反しない。 第1 事案の概要:必要的弁護事件において、控訴審の控訴趣意書提出期限までに弁護人が選任されなかった事案。…
あてはめ
本件は傷害事件であり必要的弁護事件に該当する。申立人が照会に回答せず弁護人も選任しなかった以上、刑訴規則178条3項に基づき、裁判長は直ちに弁護人を選任すべき義務を負っていた。しかし、裁判長はこの措置をとらず、控訴趣意書の差出最終日が経過するまで申立人に弁護人がいない状況を放置した。このような手続的瑕疵がある以上、控訴趣意書および選任届の提出遅延に「やむを得ない事情」があるか否かを判断するまでもなく、当該控訴棄却決定は刑訴法289条1項の趣旨に違背する重大な違法があるといえる。
結論
必要的弁護事件において、国選弁護人選任等の適切な措置を講じないままなされた控訴棄却決定は違法であり、取り消されるべきである。
実務上の射程
控訴審における国選弁護人選任義務の発生時期を明確にした判決である。答案上は、控訴趣意書未提出による控訴棄却(386条1項1号)の可否が問われる際、必要的弁護事件であれば規則178条3項の措置が前提条件となることを論じる際に引用する。被告人の防御権保障の観点から、裁判所の選任義務を厳格に解する論理として有用である。
事件番号: 昭和45(し)51 / 裁判年月日: 昭和45年9月24日 / 結論: 棄却
原審弁護人でない弁護士名義の控訴申立書のみが控訴提起期間最終日に原裁判所へ差し出された場合、その控訴申立は無権限者のしたものとして不適法であり、その翌日同弁護士を弁護人に選任する旨の届出が追加提出されたとしても、これにより右不適法な控訴申立が適法有効となるものではない。
事件番号: 昭和25(し)27 / 裁判年月日: 昭和26年2月9日 / 結論: 棄却
強制弁護の事件につき、裁判所が被告人に対し、弁護人を選任することができること、貧困その他の事由によつて弁護人を選任することができないときは、弁護人の選任を請求することができるとの記載のある弁護人選任に関する通知を出したのに対し、被告人から自分の方で弁護人甲を選任する旨を回答があつた場合には、控訴裁判所は被告人に対し、控…
事件番号: 昭和47(し)16 / 裁判年月日: 昭和47年4月3日 / 結論: 棄却
憲法三七条三項前段所定の弁護人を依頼する権利は、被告人が自ら行使すべきもので裁判所は被告人にこの権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければ足りるものであること、同項後段の規定は、被告人が弁護人を依頼することができないときは、国に対し弁護人の選任を請求する権利があることを認めたものであつて国はかかる請求がなされたと…
事件番号: 平成21(し)205 / 裁判年月日: 平成21年6月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】必要的弁護事件において、私選弁護人が期間延長が認められないことを理由に控訴趣意書を提出せず辞任した場合、弁護人が不在であっても期間徒過による控訴棄却は認められる。 第1 事案の概要:殺人等で懲役11年の判決を受けた被告人が控訴。第1審の記録は2冊で、当初の私選弁護人3名が辞任後、新たに金岡弁護士が…