一 簡易裁判所の裁判官が発した勾留状により勾留されている被疑者の事件が地方裁判所に起訴された場合には、第一回公判期日前における勾留理由の開示は、その地方裁判所の裁判官が行なうべきものである。 二 金沢地方裁判所裁判官がした本件勾留理由開示請求事件を金沢簡易裁判所に移送する旨の決定およびこれを是認した原決定(判文参照)は、いずれもその決定の時点においては正当であつたが、事件につき公訴が提起された現在においては、同簡易裁判所裁判官は、もはや本件勾留理由の開示をすることはできないから、いずれも刑訴法四一一条一号によりこれを取り消すべきである。
一 簡易裁判所の裁判官が発した勾留状により勾留されている被疑者の事件が地方裁判所に起訴された場合と第一回公判期日前における勾留理由の開示をなすべき裁判官 二 特別抗告審において原決定後の事由により原決定が取り消された事例
刑訴法82条,刑訴法280条,刑訴法433条,刑訴規則187条
判旨
勾留理由開示の管轄は、公訴提起前は勾留状を発した裁判官、公訴提起後第一回公判期日前は公訴を受けた裁判所の裁判官、第一回公判期日後は受訴裁判所がそれぞれ担当すべきである。そのため、公訴提起により管轄が移転した場合には、それ以前の移送決定等は法令違反として取り消されるべきである。
問題の所在(論点)
公訴提起を境として、勾留理由開示請求事件の管轄および処理権限がどのように遷移するか、また公訴提起前になされた移送決定の効力が公訴提起によってどのように影響を受けるかが問題となる。
規範
勾留理由開示(刑訴法82条以下)の権限を有する主体は、刑事手続の段階に応じて以下の通り区分される。①公訴の提起前においては、勾留状を発した裁判官がこれを行う。②公訴の提起後、第一回公判期日前においては、公訴の提起を受けた裁判所の裁判官がこれを行う(刑訴法280条、刑訴規則187条)。③第一回公判期日後においては、受訴裁判所がこれを行う。
重要事実
事件番号: 令和6(し)262 / 裁判年月日: 令和6年4月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】勾留の際の被疑事件告知において、個人特定事項を秘匿する方法(刑訴法207条の2第2項)によったとしても、他の事項から事件を特定可能であれば、憲法34条に違反しない。 第1 事案の概要:被疑者を勾留するに当たり、裁判官が刑訴法207条の2第2項の規定を適用し、被害者等の個人特定事項を伏せた状態で被疑…
申立人は強姦致傷被疑事件につき、簡易裁判所裁判官の発した勾留状により勾留された。その後、地方裁判所に対し勾留理由の開示を請求したが、同地裁裁判官は事件を簡易裁判所へ移送する決定をした。申立人はこの移送決定に対し準抗告したが棄却されたため、特別抗告を申し立てた。しかし、その特別抗告の審理中に当該事件について地方裁判所に公訴が提起され、第一回公判期日前という状況に至った。
あてはめ
本件において、地方裁判所裁判官がなした移送決定およびそれを維持した準抗告棄却決定は、決定当時の時点では適法な管轄に基づくものであった。しかし、その後に公訴が提起されたことにより、手続段階は上記規範の②(公訴提起後・第一回公判期日前)へと移行した。この段階では、公訴を受けた地方裁判所の裁判官が勾留理由開示を行うべきであり、もはや簡易裁判所の裁判官がこれを行うことはできない。したがって、簡易裁判所への移送を命じた原決定等を維持することは、現在の法状況に照らせば管轄の誤りを含む法令違反の状態にあるといえる。
結論
公訴提起により勾留理由開示の権限は公訴を受けた裁判所の裁判官に移転するため、従前の移送決定および原決定を取り消す。
実務上の射程
被疑者勾留から被告人勾留への切り替わり(公訴提起)に伴い、勾留理由開示の実施主体が「勾留状を発した裁判官」から「受訴裁判所の裁判官(または受訴裁判所)」へ変動することを明示した判例である。実務上、勾留理由開示手続中に起訴があった場合、管轄違いを理由とする取消しが必要になる点に留意すべきである。
事件番号: 平成7(し)40 / 裁判年月日: 平成7年4月12日 / 結論: 棄却
一 勾留に関する処分を行う裁判官は職権により被疑者又は被告人の勾留場所を変更する旨の移監命令を発することができる。 二 裁判官に移監命令の職権発動を促す趣旨でされた勾留取消し請求を却下した裁判に対する不服申立ては許されない。
事件番号: 令和5(し)270 / 裁判年月日: 令和5年5月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】勾留理由の開示は、裁判官が公開の法廷で勾留の理由を告げる事実にすぎず、刑訴法433条1項の「決定又は命令」に当たらない。したがって、開示された勾留理由の内容に不服がある場合でも、特別抗告を申し立てることはできない。 第1 事案の概要:特別抗告人は、裁判官が行った勾留理由開示期日における告知内容に不…
事件番号: 平成17(し)406 / 裁判年月日: 平成17年10月24日 / 結論: 棄却
公訴提起後第1回公判期日前に弁護人が申請した起訴前の勾留理由開示の期日調書の謄写について裁判官が刑訴法40条1項に準じて行った不許可処分に対しては,同法429条1項2号による準抗告を申し立てることはできず,同法309条2項により異議を申し立てることができる。
事件番号: 平成28(し)607 / 裁判年月日: 平成28年10月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】保釈請求に対する検察官の意見書について、裁判官が弁護人に謄写を許可しなかった措置は是認できない。 第1 事案の概要:被告人の保釈請求に対し、検察官が意見書を提出した。原々審の裁判官は、この検察官の意見書について、弁護人からの謄写申請があったにもかかわらず、これを許可しなかった。 第2 問題の所在(…