大学の移転統合計画等に反対する学生が、(一)大学本部二階に新設された遮断扉につき多数学生の面前で説明することを事務局長に要求して拒否されると、同人を階下に連れ降ろそうとし、数人共同して、同人の腰かけている椅子次いでテーブルを倒し、その都度同人を床上にずり落とし、更に同人がベアリング付椅子に腰かけているのを椅子ごと二回にわたつて事務局長室の出入口方向へ押し出した共同暴行行為、(二)その際事務局長の机上で見付けた書類を庶務課総務係長から取り上げようとし、数人共同して、同人を事務局長室から引きずり出し、更に同人を持ち上げ仰向けにして二十数段の階段を運び降ろし、また、胴上げするようにして抱え上げる等した共同暴行行為(各判文参照)は、法秩序全体の見地からみるとき、原判示の動機目的、その他諸般の事情を考慮に入れても、刑法上違法性を欠くものではない。
学生の大学事務局職員に対する共同暴行行為が刑法上の違法性に欠けるところはないとされた事例
刑法35条,暴行行為等処罰に関する法律1条
判旨
大学紛争における学生の抗議行動が、その動機や目的において一定の正当性があるとしても、暴力や物理的な強制を用いる行為は法秩序全体の見地から許容されず、実質的違法性を欠くとはいえない。
問題の所在(論点)
学生運動の一環として行われた暴力的・強制的な抗議行動が、構成要件に該当しつつも「実質的違法性」を欠くとして正当化されるか。
規範
行為の違法性は、形式的に構成要件に該当するのみならず、法秩序全体の見地からその行為が許容されるべきか否かによって決せられる。目的が正当であったとしても、手段において暴力や物理的強制を用いるなど、社会通念上相当と認められる範囲を著しく逸脱する行為は、実質的違法性を欠くものではない。
重要事実
B大学の学生である被告人らは、大学の移転計画に反対し、事務局長に対し説明を求めて応接椅子やテーブルごと転倒させ、物理的に階下へ連れ出そうとした。また、別の職員に対しても、所持する書類を「思想調査文書」と断定し、同人を数名で抱え上げ、階段を運び降ろして階下ホールに連行した上、多人数で取り囲んで抵抗を排除し、ポケットから書類を強引に奪い取った。原審は、学生らの動機に酌むべき点があるとして実質的違法性を否定し無罪とした。
事件番号: 昭和42(あ)2254 / 裁判年月日: 昭和43年4月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働争議に伴う行為であっても、暴力の行使を伴う場合には、相手方の不当労働行為の有無にかかわらず正当な業務行為としての正当性を欠き、違法性が阻却されない。 第1 事案の概要:郵政当局による団体交渉拒否が、当時の公共企業体等労働関係法4条3項に基づく不当労働行為に該当する可能性がある状況下において、被…
あてはめ
被告人らの行為は、事務局長を椅子ごと転倒させ、職員を仰向けのまま階段から運び降ろすなど、極めて強硬かつ物理的な強制力を伴うものである。被害者らが抵抗を示しているにもかかわらず、多人数でこれを取り囲んで目的を強行しており、大学当局に対する抗議という動機や目的のいかんを問わず、その手段は法秩序において許容される範囲を明らかに超えている。したがって、法秩序全体の見地から見て社会的に相当な行為とはいえず、違法性は阻却されない。
結論
被告人らの行為は実質的違法性を欠くものではなく、有罪とした第一審判決の維持が相当である(原判決破棄)。
実務上の射程
可罰的違法性論や実質的違法性阻却の限界を示す判例。学生運動などの社会運動であっても、手段の暴力性・強制性が強い場合には、法秩序全体の見地から違法性が肯定される。司法試験では「正当業務行為(刑法35条)」や「自力救済の禁止」の文脈で、手段の相当性を否定するあてはめの参照モデルとなる。
事件番号: 昭和42(あ)47 / 裁判年月日: 昭和48年3月22日 / 結論: 棄却
一、大学の許可した学生集会であつても、真に学問的研究またはその結果の発表のためのものでなく、実社会の政治的社会的活動にあたる行為をする場合には、大学の有する特別の自由と自治を享有するものではない。 二、併合罪の関係にある甲乙二個の公訴事実のうち甲についてはその一部の事実を認めながら正当行為とし、乙についてはその事実が認…
事件番号: 昭和27(あ)4473 / 裁判年月日: 昭和29年2月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合等の活動が刑法上の正当行為(刑法35条)として違法性を阻却されるためには、その行為が憲法28条の趣旨に照らし、正当な団体交渉の目的達成のために必要かつ相当な範囲内で行われることが必要である。 第1 事案の概要:被告人らの所為が刑法上の犯罪構成要件に該当する一方で、被告人側は当該行為が憲法2…
事件番号: 昭和27(あ)770 / 裁判年月日: 昭和28年5月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が複数人で共同して暴行を加えた行為について、それが強制わいせつ罪の構成要件の一部をなすものではなく、単なる暴行に止まる場合には、強制わいせつ罪ではなく暴行罪(又は共同正犯)が成立する。 第1 事案の概要:被告人が数人と共同して暴行をなした事実が認められたが、弁護人はこれが刑法176条(当時の…
事件番号: 昭和38(あ)1052 / 裁判年月日: 昭和40年3月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】労働組合法1条2項ただし書の「暴力の行使」に該当するか否かは、当該行為が社会通念上許容される限度を超えるものであるか否かによって判断される。社会通念上の限度を超えると認められる場合は、刑法上の正当行為(同法35条)としての違法性阻却を認めない。 第1 事案の概要:被告人らの原判示所為(具体的な事案…