一 速度規制を表示する道路標識が、その設置場所および標示板わん曲等の関係上(原判文参照)、通常の運転をする者からは容易にその内容を識別できないときは、その標識はその者に対し適法有効なものといえない。 二 「区域」を指定してする速度規制が適式に行なわれているときは、別異の規制がなされていないかぎり、当該区域内の道路の全部にその効力が及び、違反行為の場所またはその付近に存する当該規制を表示する道路標識が無効であつても、右規制の効力に消長を来たさない。 三 東京都内を通行する普通自動車の運転者は、東京都公安委員会が都内全域につき普通自動車等の原則的な最高速度として指定している四〇キロメートル毎時を超える速度で進行するには、その道路がこれを許容する区間または区域内であることを確認する注意義務があり、これを怠つて右原則的規制の効力の及ぶ道路を右最高速度を超える速度で運転進行したときは、少なくとも過失による最高速度超過運転の罪責を免れない。
一、適法有効な道路標識といえないとされた事例 二、「区域」を指定してする速度規制の効力 三、東京都内を通行する普通自動車の運転者が速度規制につき払うべき注意義務
道路交通法(昭和46年6月2日法律98号による改正前のもの)9条,道路交通法(昭和46年6月2日法律98号による改正前のもの)22条,道路交通法(昭和46年6月2日法律98号による改正前のもの)68条,道路交通法(昭和46年6月2日法律98号による改正前のもの)118条1項3号,道路交通法(昭和46年6月2日法律98号による改正前のもの)118条2項,道路交通法施行令(昭和46年11月24日政令348号による改正前のもの)7条1項,道路交通法施行令(昭和46年11月24日政令348号による改正前のもの)7条3項,東京都道路交通規則(昭和43年1月31日東京都公安委員会規則2号による改正前のもの)6条
判旨
東京都全域のような区域指定による最高速度規制が適式に行われている場合、個別の標識が識別困難であっても当該区域内の道路には規制の効力が及ぶ。運転者は、原則的な規制速度を超える速度で進行する際、その道路が例外的に許容された区間であることを確認すべき注意義務を負う。
問題の所在(論点)
設置された道路標識が識別困難で無効である場合、当該道路における最高速度規制の効力はどうなるか。また、それを認識せずに速度超過した運転者に過失が認められるか。
規範
「区域」を指定してなされる交通規制は、別異の規制がなされていない限り、当該区域内の道路全部にその効力が及ぶ。また、広域的な原則的規制が公知の事実として適式に行われている場合、運転者は原則の速度を超えるにあたり、その道路が例外的な許容区間であることを確認すべき注意義務を負う。
重要事実
被告人は、東京都内の交差点を右折進行する際、時速60キロメートルで普通自動車を運転した。当該場所には最高速度を40キロメートルに制限する標識が設置されていたが、設置状況から通常の運転者が容易に内容を識別できる状態(適法有効)ではなかった。一方で、東京都内全域には普通自動車等の最高速度を時速40キロメートルとする原則的指定がなされ、多数の標識により適式に実施されていることは公知の事実であった。
あてはめ
本件標識は識別困難で無効といえるが、東京都全域には時速40キロメートルの区域規制が及んでおり、標識の無効は指定最高速度が40キロメートルである事実に影響しない。都内を通行する運転者は、原則的規制(40キロメートル)を超える速度で進行する場合、その道路が例外的に高速度を許容する区間かを確認すべき注意義務がある。被告人はこの確認を怠り、漫然と規制超えの速度が許容されると即断して時速60キロメートルで走行した点に過失が認められる。
結論
本件標識が有効とした原判決の判断には誤りがあるが、区域規制の効力および被告人の注意義務違反が認められる以上、過失による最高速度超過運転の罪責を免れず、原判決を破棄しなくても著しく正義に反しない。
実務上の射程
行政上の規制が「区域」として一般的に行われている場合、個別標識の不備(可視性等)のみをもって直ちに規制の効力や運転者の過失を否定できないことを示す。行政法規違反における過失の判断において、公知の原則的規制の存在を前提とした注意義務を構成する際の重要な指針となる。
事件番号: 昭和41(あ)1208 / 裁判年月日: 昭和42年2月18日 / 結論: 棄却
東京都内においては、普通自動車の最高速度を原則として四〇キロメートル毎時とする規制が、東京都公安委員会の設置する道路標識によりなされている事実は、公知の事実に属する。