一 報道の自由は、表現の自由を規定した憲法二一条の保障のもとにあり、報道のための取材の自由も、同条の精神に照らし、十分尊重に値いするものといわなければならない。 二 報道機関の取材フイルムに対する提出命令が許容されるか否かは、審判の対象とされている犯罪の性質、態様、軽重および取材したものの証拠としての価値、公正な刑事裁判を実現するにあたつての必要性の有無を考慮するとともに、これによつて報道機関の取材の自由が妨げられる程度、これが報道の自由に及ぼす影響の度合その他諸般の事情を比較衡量して決せられるべきであり、これを刑事裁判の証拠として使用することがやむを得ないと認められる場合でも、それによつて受ける報道機関の不利益が必要な限度をこえないように配慮されなければならない。
一 報道および取材の自由と憲法二一条 二 報道機関の取材フイルムに対する提出命令の許容される限度
憲法21条,刑訴法99条,刑訴法262条,刑訴法265条
判旨
報道の自由は憲法21条の保障下にあり、そのための取材の自由も同条の精神に照らし十分尊重される。もっとも、公正な裁判の実現という憲法上の要請がある場合には、取材の自由は比較衡量のうえで合理的な制限を受け得る。
問題の所在(論点)
報道機関の取材の自由は憲法21条により保障されるか。また、刑事裁判の証拠として取材フィルムの提出を命じることは、取材の自由を不当に侵害し憲法21条に違反しないか。
規範
報道機関の報道は、国民の「知る権利」に奉仕するものとして、憲法21条の保障の下にある。また、報道のための取材の自由も、同条の精神に照らし、十分尊重に値する。取材の自由に対する制約の是非は、①犯罪の性質・態様・軽重、②証拠としての価値および必要性(公正な裁判実現の必要性)と、③制約により妨げられる程度および報道の自由への影響度を比較衡量して決すべきである。その際、報道機関の受ける不利益が必要な限度を超えないよう配慮を要する。
重要事実
事件番号: 平成2(し)74 / 裁判年月日: 平成2年7月9日 / 結論: 棄却
報道機関の取材ビデオテープが軽視できない悪質な被疑事件の全容を解明する上で重要な証拠価値を持ち、他方、右テープが被疑者らの協力によりその犯行場面等を撮影収録したものであり、右テープを編集したものが放映済みであって、被疑者らにおいてその放映を了承していたなど判示の事実関係の下においては、右テープに対する捜査機関の差押処分…
学生と機動隊の衝突事件に関し、公務員職権乱用罪等の成否を審理する付審判請求事件において、裁判所が報道各社に対し取材済みフィルムの提出命令を発した。報道各社は、かかる命令は将来の取材を困難にし、憲法21条に違反すると主張して抗告した。
あてはめ
本件事件は機動隊員による暴行等の成否が問題となっており、発生から2年が経過し、目撃者の特定が困難な状況にある。中立的な立場で撮影された本件フィルムは、被疑者の罪責を判定する上で「ほとんど必須」といえるほど証拠価値が高い(上記①②)。これに対し、本件フィルムは放映済みまたは放映準備中のものであり、提出による不利益は将来の取材の自由が妨げられるおそれにとどまる(上記③)。裁判所も仮還付等の配慮を表明しており、公正な刑事裁判の実現という要請に照らせば、本件制約は忍受すべき限度内である。
結論
本件フィルム提出命令は憲法21条に違反しない。刑事裁判における実体的真実の発見という強い要請がある場合、比較衡量の結果、取材の自由が一定の制約を受けることはやむを得ない。
実務上の射程
報道の自由は21条の「保障」下にあるとした一方、取材の自由については「21条の精神に照らし尊重される」との表現にとどめ、画一的な絶対的保障を否定した。本件は刑事裁判の証拠提出に関する事案であり、民事裁判での証言拒絶や、公権力による強制捜査の場面では、比較衡量の具体的重みが異なり得る点に注意が必要である。
事件番号: 昭和46(し)2 / 裁判年月日: 昭和46年1月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の供述調書の任意性に疑いがある事実は認められず、また、当該調書のみを証拠として事実認定がなされたわけではない場合、自白の証拠能力や補強法則に関する憲法違反の主張は前提を欠く。 第1 事案の概要:被告人が捜査官に対して行った供述を録取した調書の任意性が争われた事案。抗告人は、当該供述調書には任…
事件番号: 昭和46(し)66 / 裁判年月日: 昭和46年9月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】受刑者に対し一定の限度で運動を命令強制することは、憲法18条、31条、36条に違反せず、また戒具(革手錠)の使用がその時間および形態において必要性の範囲内であれば憲法36条に違反しない。 第1 事案の概要:受刑者である抗告人が、刑務所当局から運動を命令強制されたこと、および革手錠を使用されたことに…
事件番号: 昭和29(秩ち)1 / 裁判年月日: 昭和33年2月17日 / 結論: 棄却
一 新聞が真実を報道することは、憲法第二一条の認める表現の自由に属し、またそのための取材活動も認められなければならないことはいうまでもないが、その自由も無制限であるということはできず、たとい公判廷の情況を一般に報道するための取材活動であつても、その活動が公判廷における審判の秩序を乱し、被告人その他訴訟関係人の正当な利益…
事件番号: 平成16(し)244 / 裁判年月日: 平成16年10月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事手続付随措置法3条1項に基づく被害者傍聴優先措置に関する決定に対し、刑事訴訟法上の抗告をすることは認められない。 第1 事案の概要:東京地方裁判所が「犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」3条1項に基づき、特定の者に対して傍聴の優先的な配慮等を行う措置(本件措置)を…