業務上過失致死事件の犯人として、第一審において有罪の判決を受け、控訴審においても控訴棄却を言い渡された被告人が、右判決に対し上告申立をしたところ、真犯人が警察に自首し、同人に対し業務上過失致死、被告人に対し犯人隠避等の罪による起訴がなされ、これらを有罪とする新たな第一審判決の言渡があり、その公判において取調べられた各証拠によつて、被告人が真犯人の身代りとなつていたものであることが明らかに認められる場合には、刑訴法四三五条六号にいわゆる「有罪の言渡を受けた者に対し無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したとき」にあたるものとして、同法四一一条四号により原判決ならびにその認容する第一審判決を破棄すべきである。
いわゆる交通事故の身代り犯人につき刑訴法四一一条四号が適用された事例
刑訴法411条4号,刑訴法435条6号
判旨
上告審において、有罪判決を受けた者に対して無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見したときは、再審事由があるものとして、職権により原判決を破棄し無罪を言い渡すことができる。
問題の所在(論点)
上告審の審理中に、原判決の認定を覆す「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」が発見された場合に、職権で原判決を破棄し、自ら無罪の自判をすることができるか(刑訴法411条4号、413条但書の適用)。
規範
最高裁判所は、刑訴法411条4号に基づき、再審の請求をすることができる事由(同法435条6号等)がある場合において、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、職権をもって判決を破棄することができる。この場合、訴訟記録および当審で取り調べた証拠により直ちに判決ができるときは、自ら被告事件について無罪の判決を言い渡すことができる(同法413条但書、336条)。
重要事実
被告人は、業務上過失致死罪で第一審・控訴審ともに有罪判決を受けた。しかし、上告申立後に真犯人であるAが自首し、被告人も自身が身代わりであったことを告白した。その後の捜査により、Aは同罪で起訴され第一審で有罪判決を受け(控訴中)、被告人自身も犯人隠避罪等で有罪判決が確定した。これにより、本件死亡事故を発生させたのは被告人ではなくAであり、被告人は助手席に同乗していたに過ぎない事実が、新証拠(供述調書等)によって明らかとなった。
あてはめ
新たに発見されたAの自首内容、および関連する業務上過失致死被告事件の証拠によれば、事故の運転者はAであり被告人は無実であることが認められる。これは刑訴法435条6号の再審事由に該当する。このような明白な誤判を維持することは著しく正義に反するため、刑訴法411条4号に基づき職権で原判決および第一審判決を破棄すべきである。さらに、当審で取り調べた記録により、被告人が犯人でないことは明白であり、追加の事実取調べを要さず直ちに判決が可能である。
結論
原判決および第一審判決を破棄し、被告人は無罪。
実務上の射程
上告審において死後生起した事情や新証拠に基づき、再審事由を理由として職権破棄自判(無罪)を行う際のリーディングケースである。答案上は、真犯人の出現や身代わりの判明など、著しい冤罪の可能性がある事案において、411条4号の「著しく正義に反する」該当性を論じる際の根拠として活用する。
事件番号: 昭和46(あ)2331 / 裁判年月日: 昭和48年7月20日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】被告人が身代わりとして起訴され有罪判決を受けた後、真犯人が自首し被告人に犯人隠避罪が確定した事案において、原判決の維持は著しく正義に反するため、刑訴法411条4号に基づき破棄し、無罪を言い渡すべきである。 第1 事案の概要:被告人は業務上過失傷害罪等で禁錮5月の第一審判決を受け、控訴棄却された。し…
事件番号: 昭和52(あ)295 / 裁判年月日: 昭和53年12月15日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】真犯人の身代わりとして起訴され有罪判決を受けた被告人が、上告中に真実を申告し、その後の捜査で真犯人が判明した事案において、刑訴法411条4号及び435条6号(再審事由)に準じて原判決を破棄し、差し戻すべきである。 第1 事案の概要:被告人は、真犯人Aから身代わりを依頼され、Aが起こした業務上過失傷…