申告納税制度のもとにおいて、納税義務者本人が第三者名義でその納税申告をすることは、法の全く予定していないところであり、これが外観上一見して納税義務者本人の通称ないし別名による申告と判断できるような場合でない限り、納税義務者本人の納税申告として、その納税義務の確定という公法上の効果は生ぜず、有効な納付はなし得ない。
第三者名義による申告納税の効果
物品税法29条2項,物品税法31条2項,物品税法44条1項1号
判旨
納税義務者が第三者名義で行った納税申告は、外観上一見して本人と判断できる場合を除き、納税義務確定の法的効果を生じない。また、他人名義の納付分を有効と誤信しても法律の錯誤にすぎず、脱税の故意は阻却されない。
問題の所在(論点)
1. 納税義務者が第三者の名義を借りて行った納税申告および納付に、当該義務者本人の申告納付としての公法上の効果が認められるか。 2. 他人名義の申告納付が有効であると誤信していた場合、脱税の故意が阻却されるか(脱税額の計算に影響するか)。
規範
申告納税制度における納税申告は、納税義務の確定という公法上の効果を発生させる要式行為である。租税法における法的安定性・明確性の要請から、納税義務者本人が第三者名義で行う申告は、外観上一見して本人の通称や別名と判断できるような特段の事情がない限り、納税義務確定の効果を生じない。また、他人名義の申告納付が法律上有効であると誤信したとしても、それは単なる「法律の錯誤」にすぎず、脱税の故意(事実の認識)を阻却しない。
重要事実
被告人はA社の代表取締役であり、物品税の課税を免れるため、製造部門を形式的に第三者名義とする工作を行った。被告人はA社名義の申告をせず、下請業者Bや社員C・D、あるいは名目上の有限会社Eの名義を借りて製造開始申告書や納税申告書を提出した。これらの他人名義の申告において、被告人は真実の移出数量の一部のみを記載して納税し、多額の物品税を逋脱した。原審は、他人名義であっても実在する者の承諾を得た申告であり内容が全て虚偽ではないとして、納付済みの金額を脱税額から控除すべきとしたため、検察官が上告した。
あてはめ
本件におけるB・C・Dおよび有限会社E名義の申告は、納税義務者であるA社によるものとは到底解されない。これらは外観上A社の通称とも認められず、法の予定しない第三者名義の申告であるから、A社の納税義務を確定させる効果はない。したがって、これに応じた納付もA社の有効な納付とはみなせない。また、被告人がこれらの名義借り申告を有効と信じていたとしても、それは法の解釈を誤ったにすぎず、客観的に存在する「真実の移出数量に応じた税額と実際の納付額との差額」という逋脱事実の認識を欠くものではない。よって、他人名義の納付分を控除せずに脱税額を算定すべきである。
結論
第三者名義の申告納付は原則として無効であり、納税義務者本人の納付分として脱税額から控除することはできない。また、その有効性を誤信しても法律の錯誤として故意は阻却されない。
実務上の射程
租税法における申告の要式性と法的安定性を重視する判断である。実務上、脱税事件において工作目的で他人名義を用いた場合、その既払金が脱税額から差し引かれることは原則としてないことを示した。また、租税法規の解釈に関する誤信が「法律の錯誤(刑法38条3項)」に留まることを明示しており、故意の成否が争われる事案での規範として重要である。
事件番号: 昭和36(あ)188 / 裁判年月日: 昭和37年2月22日 / 結論: 棄却
物品税の納税義務者の従業員がその義務者の業務に関し不正行為をもつて物品税を逋脱した場合には、金員着服の目的によるときであつても、物品税法第一八条第一項第二号の罪が成立する。