英文の書籍のわいせつ性は、その読者たりうる英語の読める、日本人および在日外国人の普通人、平均人を基準として判断すべきである。
英文の書籍のわいせつ性の判断の基準
刑法175条
判旨
刑法175条の猥褻文書とは、徒らに性欲を興奮刺激し、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し善良な性的道義観念に反するものをいう。文書が外国語(英文)で書かれている場合であっても、その読者たり得る範囲の普通人・平均人を基準として猥褻性を判断すべきである。
問題の所在(論点)
刑法175条の「猥褻」性の判断において、文書が外国語で記述され読者が限定される場合、いかなる基準で判断すべきか。また、思想の弾圧にあたらないか。
規範
「猥褻」な文書とは、①徒らに性欲を興奮または刺激させ、②普通人の正常な性的羞恥心を害し、③善良な性的道義観念に反するものをいう。その判断基準は一般社会の良識たる「社会通念」によるべきであるが、読者が限られる場合には、その読者たり得る範囲の普通人・平均人を基準として、社会通念を調整適用して判断する。
重要事実
被告人が、英文で書かれた書籍(いわゆる春本)計8種を不特定多数者に販売したとして、わいせつ物頒布等の罪で起訴された。弁護人は、当該書籍が英文であり日本の社会の平均人には読解困難であるから、公然性がなく猥褻性を欠く(チャタレイ事件大法廷判決の基準に反する)と主張して上告した。
事件番号: 昭和48(あ)2593 / 裁判年月日: 昭和49年4月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法21条1項が保障する表現の自由は絶対無制限ではなく、性生活の秩序や健全な風俗の維持という公共の福祉による制限を受けるため、刑法175条のわいせつ物頒布罪等の規定は合憲である。 第1 事案の概要:被告人が、3人1組の性戯や性交の場面等を、性器の形状や動き、行為者の言動などについて具体的、詳細かつ…
あてはめ
本件各書籍は、内容全般にわたり露骨詳細な性交・性戯の描写があり、性的興奮に訴えるものである(①〜③充足)。英文であるため読者は限定されるが、その英文は平明かつ現代的であり、英語の読める日本人や在日外国人が多数購入している事実が認められる。したがって、これら「読者たり得る者」を基準とすれば、不特定多数への公然販売はわが国の性的秩序を乱すものであり、猥褻性は否定されない。また、本件は露骨な描写を対象としており、思想そのものを理由とするものではないため、憲法21条にも反しない。
結論
本件各書籍は猥褻文書にあたり、英文であることを理由に直ちにその猥褻性が否定されるものではない。上告棄却。
実務上の射程
チャタレイ事件大法廷判決(最判昭32.3.13)が示した「社会通念」という抽象的基準を、特殊な読者層を持つ媒体においてどのように具体化すべきかを示した事例である。「読者たり得る範囲の平均人」という視点は、専門誌やサブカルチャー等、対象が限定的な表現物の猥褻性検討において重要なあてはめの指針となる。
事件番号: 昭和41(あ)1205 / 裁判年月日: 昭和42年10月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条にいう「わいせつ」な文書とは、徒らに性欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。文書の内容が性行為の叙述に終始し、表現の具体性や露骨性の程度にかかわらず、右要件を充足する場合にはわいせつ文書に該当する。 第1 事案の概要:被告人が…
事件番号: 昭和46(あ)1905 / 裁判年月日: 昭和48年4月12日 / 結論: 棄却
一 猥褻文書の販売を処罰することは、憲法二一条に違反しない。 二 文書の猥褻性の有無は、その文書自体について客観的に判断すべきものであり、現実の購読層の状況あるいは業者や出版者としての著述、出版意図など当該文書外に存する事実関係は、文書の猥褻性の判断の基準外に置かれるべきものである。このように解しても、憲法二一条に違反…