原判決が、昭和四三年法律第六一号による改正後の刑法第四五条を適用して一個の懲役刑を科すべきであつたのに、右改正前の同条を適用して三個の懲役刑を科したのは、判決に影響を及ぼすべき法令違反であるが、本件事案のもとでは(判文参照)、原判決を破棄しなくても著しく正義に反するものとは認められない。
刑訴法第四一一条第一号にあたらないとされた事例
刑法45条,刑法45条(昭和43年法律61号による改正前のもの),刑法の一部を改正する法律(昭和43年法律61号)附則2項,刑訴法411条1号
判旨
刑法45条後段の改正により確定裁判が禁錮以上の刑に限定された場合、改正前に確定した罰金刑を理由に併合罪を分離し三個の懲役刑を科すことは法令違反となる。ただし、刑期の合計が適正であり、犯行態様等の諸事情に照らして量刑が相当であれば、原判決を破棄しないことが著しく正義に反するとまではいえない。
問題の所在(論点)
改正後の刑法45条後段の規定によれば一個の併合罪として処断すべき事案において、改正前の規定に基づき数個の刑を科した原判決に、判決に影響を及ぼすべき法令の違反があるか。また、その違反が原判決の破棄理由(著しく正義に反する場合)に該当するか。
規範
刑法45条後段の「確定した裁判」は、昭和43年改正法により禁錮以上の刑に処するものに限定された。改正法附則2項に基づき、改正後の適用が被告人に不利益になる場合を除き、改正前に罰金刑が確定したに過ぎない数罪については、これらを分離せず一個の併合罪として処断すべきである。また、法令違反がある場合でも、刑訴法411条等の趣旨に照らし、判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められない限り、上告裁判所は原判決を維持できる。
重要事実
被告人Aは、昭和41年4月から11月にかけて数件の犯罪に及んだ。その期間中の7月8日および11月19日に、それぞれ罰金5000円の裁判が確定していた。原審は、改正前の刑法45条後段を適用し、右罰金刑の確定裁判を境として犯罪を分離し、被告人に対し三個の懲役刑(懲役8月、1年、4月)を科した。しかし、原審判決前の昭和43年6月10日に刑法が改正され、罰金刑の確定は併合罪の分離事由から除外されていた。
あてはめ
本件では改正後の刑法45条が適用されるべきであり、罰金刑の確定しかない被告人Aについては、全犯罪を一個の併合罪として一個の懲役刑を科すべきであったため、原判決には法令違反がある。しかし、三個の懲役刑の合計(2年)は一個の懲役刑として科し得る刑期と同一であり、数個の刑に分けられたこと自体が直ちに不利益とはいえない。加えて、犯行の態様、回数、被害金額、前科、共犯者との均衡を総合すると、合計懲役2年の刑期は相当であると認められる。
結論
原判決には改正後の刑法45条を適用しなかった法令違反があるものの、量刑の結論自体は相当であり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
法令違反が認められる場合であっても、実質的な不利益がない場合や結論が正当化される場合には、刑訴法の救済規定(破棄の必要性)を厳格に解釈し、判決を維持する実務上の運用を示す事例である。特に併合罪の処理誤りにおける「不利益」の判断基準として参照される。
事件番号: 昭和25(あ)1189 / 裁判年月日: 昭和26年12月25日 / 結論: 棄却
被告人が一箇の恐喝行為によつて同時に二人の被害者から全品を奪取した所為に対し刑法第五四条第一項前段、第一〇条を適用しなかつた点に、たとえ判例違反があるとしても、右犯行と併合罪の関係にある他の恐喝罪の刑に併合罪の加重をして処断している以上、右判例違反は判決に影響を及ぼさないことが明らかである。