一 トルコ風呂経営者と児童であるいわゆるミストルコとの間の雇傭契約が、その児童の親権者の同意を得ていないものである場合、当該雇傭関係は、児童福祉法第三四条第一項第九号にいう「正当な雇用関係」にあたらない。 二 トルコ風呂経営者である被告人らと児童であるミストルコらとの関係の実体につき、出勤時間が定められ、無断欠勤、遅刻に対しては一定の制裁金が科せられていたこと、週に一、二回点呼があり、被告人らから客に対する態度等について注意がなされていたこと、出勤中自由な外出が認められていなかつたこと等の事実が認められ、被告人らのミストルコに対する使用関係が指導、監督につき相当強力な措置を含むものであつたとみられる場合(原判文参照)には、被告人らに前記条項第九号にいう児童を「自己の支配下に置く行為」があつたものと認めるのが相当である。 三 満一八歳に満たない児童が、トルコ風呂のミストルコとして、順番又は客の指名により入浴客に個々につき、個室内において水着姿で客の身体を洗いマッサージをするなど(原判文参照)の行為は、前記条項第九号にいう「児童の心身に有害な影響を与える行為」にあたる。
一 児童福祉法第三四条第一項第九号にいう「正当な雇用関係」にあたらないとされた事例 二 同条項同号にいう児童を「自己の支配下に置く行為」があつたとされた事例 三 同条項同号にいう「児童の心身に有害な影響を与える行為」にあたるとされた事例
児童福祉法34条1項9号,児童福祉法60条2項
判旨
児童福祉法34条1項9号にいう「正当な雇用関係」とは、単に形式的な雇用契約が存在するだけでは足りず、少なくとも親権者等の同意を得た適法な手続に基づくものであることを要する。また、児童を自己の支配下に置く行為があり、その行為が精神面・情操面で未成熟な児童の心身に有害な影響を与えるものであれば、同法違反の罪が成立する。
問題の所在(論点)
児童福祉法34条1項9号が禁止する児童の引渡し・受領等の行為に関し、親権者の同意のない雇用契約が「正当な雇用関係」に該当するか。また、どのような行為が児童の心身に有害な影響を与えるものとして同法違反を構成するか。
規範
児童福祉法34条1項9号の「正当な雇用関係に基くもの」と認められるためには、私法上の雇用契約が存するのみならず、各児童の親権者など法定代理人の同意を得ている等の適法な手続を要する。また、同条の禁止行為に該当するか否かは、児童を実質的な支配下に置いているか、およびその行為の内容が未成熟な児童の心身(精神面・情操面を含む)に有害な影響を及ぼすものであるかによって判断される。
重要事実
被告人らは、児童である被害者ら(ミストルコら)を自己の支配下に置いていた。この際、被告人らは被害者らとの間で雇用契約を締結していたものの、それらはいずれも各児童の親権者の同意を得ていないものであった。また、被告人らが児童に行わせた行為(詳細は判決文からは不明だが、ミストルコらの行為とされるもの)は、精神面や情操面の発育が未成熟な児童の心身に対して、有害な影響を与える性質のものであった。
あてはめ
本件において、各雇用契約は児童の親権者の同意を欠いており、手続の適法性を欠くため、同法にいう「正当な雇用関係」には当たらない。また、被告人らが児童を自己の支配下に置いていた事実に加え、当該児童らが行っていた行為の内容は、精神・情操面での成長過程にある児童の心身にとって有害であると認められる。したがって、被告人らの行為は児童福祉法が禁止する態様に該当し、違法性が認められる。
結論
親権者の同意のない雇用契約は「正当な雇用関係」にあたらず、児童を支配下に置いて心身に有害な影響を与える行為をさせた以上、児童福祉法34条1項9号違反が成立する。
実務上の射程
児童福祉法違反の成否において「正当な雇用関係」の意義を厳格に解し、親権者の同意を必須とした点に意義がある。答案上は、形式的な契約の有無にかかわらず、法定代理人の関与という手続的適法性と、児童の心身への実質的な有害性をセットで検討する際の規範として活用できる。
事件番号: 昭和30(あ)1283 / 裁判年月日: 昭和30年9月16日 / 結論: 棄却
児童福祉法第三四条第一項第七号にいう「児童を引き渡す行為」は児童の意思に反すると否と、また犯人が職業としてこれを行うと否とを問わず成立するものと解すべきである。
事件番号: 昭和58(あ)179 / 裁判年月日: 昭和59年11月30日 / 結論: 棄却
満一八歳に満たない児童を、裸体の女性の下腹部を露骨に強調して撮影した写真集(いわゆるビニール本)の販売店で店員としてその販売に従事させることは、児童福祉法三四条一項九号にいう「児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる」ことに該当し、この場合、必ずしも右写真集が刑法上のわいせつ物であることを要しない。