軽犯罪法一条三三号前段は、憲法二一条一項に違反しない。
軽犯罪法一条三三号前段と憲法二一条一項
軽犯罪法1条33号前段,憲法21条1項
判旨
軽犯罪法1条33号前段は、他人の工作物等に対する財産権・管理権を保護する目的で、みだりなはり札行為を規制するものである。表現の自由の行使であっても、他人の権利を不当に害する手段は許されず、同規定による規制は公共の福祉のための必要かつ合理的な制限として合憲である。
問題の所在(論点)
他人の電柱に無断でビラを貼る行為を処罰する軽犯罪法1条33号前段は、表現の自由を保障する憲法21条1項、および適正手続・明確性の原則を定める憲法31条に違反しないか。
規範
表現の自由(憲法21条1項)といえども絶対無制限ではなく、公共の福祉による制限を受ける。表現の手段が他人の財産権や管理権を不当に害するものである場合には、当該手段を規制することは、公共の福祉のため、表現の自由に対し許された必要かつ合理的な制限にあたる。また、同法にいう「みだりに」とは、社会通念上正当な理由があると認められない場合を指し、明確性の原則(憲法31条)にも反しない。
重要事実
被告人両名は、共謀の上、県道上の電柱(A株式会社、D公社、G農業協同組合らが所有・管理するもの)計37本に対し、所有者等の承諾を得ることなく、政治的なメッセージが印刷されたビラ合計84枚を、糊を使用して裏面を全面的に密着させる方法で貼り付けた。この行為が軽犯罪法1条33号前段(みだりに他人の工作物にはり札をする罪)に問われ、被告人側は同条の違憲性を主張した。
あてはめ
本件ビラ貼り行為は思想の発表という側面を有するが、糊を用いて他人の所有・管理する電柱に密着させる手法を採っている。これは、他人の工作物に関する財産権や管理権を侵害する態様の表現手段である。軽犯罪法1条33号前段は、これら財産権・管理権の保護を目的とするものであり、かかる権利を不当に害する表現手段を規制することは、公共の福祉による必要かつ合理的な制限の範囲内といえる。また、構成要件たる「みだりに」の意義も社会通念上客観的に判定可能である。
結論
軽犯罪法1条33号前段は、憲法21条1項および31条に違反しない。したがって、被告人らを拘留刑に処した原判決は正当である。
実務上の射程
表現の自由が「場所」や「手段」の制約を受けることを示した重要判例。特に、他人の所有物を利用する際の「手段の相当性」や「財産権との調整」が問題となる事案(ビラ配布、立て看板設置等)において、規制の合憲性を基礎付ける射程を持つ。答案では、内容規制ではなく「時・所・方法の規制」としての公共の福祉による制限を論ずる際に引用すべきである。
事件番号: 昭和45(あ)2341 / 裁判年月日: 昭和46年7月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】表現の自由は絶対無制限ではなく、他人の財産権や管理権を不当に害する手段による表現活動は許されない。軽犯罪法1条33号前段による規制は、公共の福祉のための必要かつ合理的な制限であり、憲法21条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が、他人の工作物(判決文からは具体的な対象は不明)に、その所有者や管…
事件番号: 昭和62(あ)1273 / 裁判年月日: 昭和63年6月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】軽犯罪法1条33号前段にいう「みだりに」とは、他人の工作物にはり札をするにつき、社会通念上正当な理由があると認められない場合を指し、憲法31条の適正手続に違反しない。また、屋外広告物条例及び同法に基づきはり札行為を処罰することは、表現の自由を保障する憲法21条に違反しない。 第1 事案の概要:被告…
事件番号: 平成1(あ)511 / 裁判年月日: 平成4年6月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】軽犯罪法1条33号及び大阪市屋外広告物条例の規定は、憲法21条および31条に違反せず、表現の自由の不当な制限には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が、軽犯罪法1条33号前段(他人の工作物にみだりに広告物等をはりつけた罪)および大阪市屋外広告物条例(許可を受けずに広告物を掲出する等の罪)に違反す…
事件番号: 昭和58(あ)1310 / 裁判年月日: 昭和61年3月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】屋外広告物条例及び軽犯罪法が定める表現活動の制限規定は、表現の自由を保障する憲法21条1項に違反せず、これを本件に適用することも合憲である。 第1 事案の概要:被告人らは、佐賀県屋外広告物条例が禁止する場所に広告物を掲出し、また軽犯罪法1条33号が規定する「他人の工作物等にみだりに広告物等をはり、…