一 憲法第三八条第三項にいう「本人の自白」には、その判決をした裁判所の公判廷における被告人の自白を含まない。 二 道路交通法第六四条、第一一八条第一項第一号のいゆる無免許運転の犯罪事実を認定するにあたつては、運転行為のみならず、運転免許を受けていなかつたという点についても、被告人の自白のほかに、補強証拠の存在することを要するものと解すべきである。
一 憲法第三八条第三項にいう「本人の自白」 二 道路交通法第六四条第一一八条第一項第一号のいゆる無免許運転の罪と補強証拠の範囲
憲法38条3項,刑訴法319条2項,道路交通法64条,道路交通法118条1項1号
判旨
無免許運転の罪において、被告人が運転免許を受けていなかった事実は、犯罪構成要件に属する客観的事実であるため、被告人の自白のほかに補強証拠を必要とする。
問題の所在(論点)
無免許運転の罪において、被告人が運転免許を受けていなかったという事実(消極的事実・身分的事実)の認定に、被告人の自白以外に補強証拠(刑訴法319条2項)を要するか。
規範
憲法38条3項及び刑訴法319条2項の「自白」には公判廷での自白が含まれないが、補強証拠の要否については、罪の客観的側面に属する事実であれば補強証拠を要する。無免許運転の罪における「免許を受けていなかった事実」は、単なる主観的側面や身分に関する事項ではなく、構成要件をなす客観的事実であるため、これについても自白以外の補強証拠を必要とする。
重要事実
被告人が道路交通法違反(無免許運転)の罪で起訴された事案である。原判決は、無免許という消極的身分の如き主観的側面については被告人の自白のみで認定できるとして、補強証拠なしに有罪を維持した。一方、証拠記録上は被告人の同僚であるAが「被告人が免許を受けていなかった事実を知っていた」旨を述べる供述調書が存在していた。
事件番号: 昭和43(あ)718 / 裁判年月日: 昭和46年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】無免許運転の罪における「免許を受けていないこと」という事実は、被告人の自白のみでは証明できず、憲法38条3項及び刑訴法319条2項に基づき補強証拠を要するが、第三者の供述調書等があれば補強証拠として十分である。 第1 事案の概要:被告人が普通自動車の運転免許を有しない状態で自動車を運転したとして、…
あてはめ
無免許運転の罪において、運転行為と「免許を受けていなかった事実」は不可分に構成要件を形成する。原判決はこれを主観的側面として補強証拠を不要としたが、同事実は客観的な犯罪構成事実の一部であるから補強証拠を要すると解すべきである。本件では、同僚Aの供述調書により被告人が免許未保持であったことが裏付けられており、これが自白を補強するに足りる証拠といえるため、原判決の法令解釈の誤りは結論に影響しない。
結論
無免許運転の罪における無免許の事実は補強証拠を要するが、本件では同僚の供述が補強証拠となるため、上告を棄却する。
実務上の射程
消極的事実や身分的要素であっても、それが犯罪の客観的構成要件に属する限り補強証拠を要することを示した射程の広い判例。答案上は、補強証拠が必要な範囲を「罪体(犯罪の客観的側面)」とする通説的見解を前提にしつつ、無免許という事実が罪体に属することを論証する際に本判決を援用する。
事件番号: 昭和44(あ)908 / 裁判年月日: 昭和44年10月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】起訴されていない犯罪事実であっても、それが本件起訴にかかる犯罪事実の情状として認定され、量刑の資料とされるにすぎない場合は、憲法31条、39条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が刑事起訴された事案において、原判決が起訴されていない一定の事実を認定した。これに対し弁護側は、当該事実を量刑の資料…
事件番号: 昭和28(あ)5051 / 裁判年月日: 昭和29年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白が存在する場合、実況見分書等の客観的証拠が自白の真実性を担保する補強証拠となり得る。自白とこれら補強証拠を総合して犯罪事実を認定することは、憲法上の証拠法則に反しない。 第1 事案の概要:被告人が犯行を認める自白をしていた。第一審判決は、この自白に加えて、犯行現場や状況を記録した実況見…
事件番号: 昭和42(あ)1662 / 裁判年月日: 昭和43年3月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】故意などの主観的要素の認定については、自白の外に直接の補強証拠を必要としない。憲法38条3項が定める補強証拠の要否に関し、罪体の一部たる故意は自白のみで認定可能であるという判断を示した。 第1 事案の概要:上告人は、犯罪事実の認定、特に故意(犯意)の認定について、自白以外の補強証拠が欠けていること…
事件番号: 昭和44(あ)1811 / 裁判年月日: 昭和44年12月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】車両等を人の身体に直接または間接に接触・衝突させる暴行罪の成立において、その認識は確定的なものであることを要せず、未必的な認識があれば足りる。 第1 事案の概要:被告人が自己の運転する車両等を人の身体に直接または間接に接触もしくは衝突させた事案において、被告人に暴行の故意があったかどうかが争点とな…