一 詐欺罪が成立するためには、被欺罔者が錯誤によつてなんらかの財産的処分行為をすることを要する。 二 被欺罔者と財産上の被害者とが同一人でない場合に詐欺罪が成立するためには、被欺罔者において被害者のためその財産を処分しうる権能または地位のあることを要する。 三 被告人が、抵当権実行により債権者甲の所有、占有に帰した家屋の奪回を企て、依然として自己が所有、占有しているかのように装い、簡易裁判所に対し、すでに失効した他の債権者乙との間の和解調書正本につき執行文付与の申請をし、同裁判所書記官補をその旨誤信させて執行文の付与を受け、更に執行吏に対し右執行文を提出して同様誤信させ、同執行吏をして、右家屋の占有を被告人から乙に移転する強制執行をさせても(判文参照)、右家屋に対する詐欺罪は成立しない。
一 詐欺罪の成立と財産的処分行為の要否 二 被欺罔者と財産上の被害者が同一人でない場合の詐欺罪の成立要件 三 いわゆる訴訟詐欺の事案につき詐欺罪が成立しないとされた事例
刑法246条
判旨
詐欺罪における被欺罔者と被害者が異なる場合、被欺罔者が被害者の財産を処分し得る権能又は地位にあることを要する。本件のように、債務名義の効力が及ばない第三者の占有物件を執行官が誤認して占有移転させたとしても、処分権能がない以上、詐欺罪は成立しない。
問題の所在(論点)
裁判所書記官を欺いて執行文を得、執行吏を欺いて第三者の占有する不動産を奪回させた行為について、処分権能のない公務員を被欺罔者とする詐欺罪が成立するか。
規範
詐欺罪(刑法246条)が成立するためには、被欺罔者が錯誤によって何らかの財産的処分行為をすることを要する。特に、被欺罔者と財産上の被害者が同一人でない場合(いわゆる三角詐欺)においては、被欺罔者において被害者のためにその財産を処分し得る権能または地位のあることを要する。
重要事実
事件番号: 昭和42(あ)786 / 裁判年月日: 昭和42年12月21日 / 結論: 棄却
土地所有者の氏名を冒用して、簡易裁判所に起訴前の和解の申立をし、被告人に右土地の所有権移転登記手続をする旨の内容虚偽の和解調書を作成させたうえ、その正本を登記官吏に登記原因を証する書面として提出し、登記簿にその旨不実の記載をさせても、右土地に関する詐欺罪は成立しないものと解すべきである。
被告人Aは、完済により失効した和解調書を債務名義として悪用し、執行文を詐取した。さらに、執行吏に対し、対象不動産が既に第三者Cの所有・占有下にあることを秘して強制執行を申し立てた。事情を知らない執行吏は、Aが占有しているものと誤認し、Cの占有下にある家屋を債権者Bに移転させる強制執行を実施した。第一審及び原審は、この行為を詐欺罪の成立を認めた。
あてはめ
本件における強制執行の債務名義上の債務者は被告人Aであり、第三者Cではない。そのため、当該債務名義の効力はCに及ばない。したがって、被欺罔者である裁判所書記官補及び執行吏は、被害者Cの財産である本件家屋を処分し得る権能や地位を有していたとはいえない。また、これら公務員がCに代わって財産的処分行為をしたとも解されない。このように、被欺罔者に処分権能が欠ける以上、被告人らが家屋を「騙取」したものとは認められない。
結論
被告人らの行為について詐欺罪の成立を認めた原判決は破棄を免れず、被告人両名は無罪とされるべきである。
実務上の射程
三角詐欺における「処分権能」の必要性を明示した重要判例である。裁判所による「訴訟詐欺」の場面でも、裁判所の判決が被害者の財産を直接的に移転させる法的効力を持つ場合に限り、この要件を満たすことになる。答案上では、被欺罔者と被害者の非同一性を指摘した後、被欺罔者が事実上または法律上の処分権能を有しているかを具体的事実から検討する際に用いる。
事件番号: 昭和28(あ)4195 / 裁判年月日: 昭和30年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】詐欺罪における被害者は、財物の所有者のみならず、事実上の保管管理を委ねられている者も含まれる。また、虚偽の誓約証書を提示して財物を交付させた場合、欺罔行為と財物交付との間には因果関係が認められる。 第1 事案の概要:被告人は、ミシン機の月賦販売を行う会社が所有し、事実上Aが保管管理していたミシン機…