一 原裁判所は上訴提起後であつても、訴訟記録がまだ上訴裁判所に到達しない間は、被告人を勾留することができる 二 勾留をする裁判所が、すでに被告事件の審理の際、被告事件に関する陳述を聞いている場合には、改めて刑訴法第六一条のいわゆる勾留質問をしなければならないものではない
一 上訴提起後における原裁判所の勾留の権限 二 受訴裁判所が勾留する場合における勾留質問の要否
(一につき)刑訴法60条,(一につき)刑訴法97条,刑訴規則92条,(二につき)刑訴法61条
判旨
上訴提起後であっても、訴訟記録がまだ上訴裁判所に到達していない間は、原裁判所が被告人を勾留することができる。これは勾留の急速を要する性質や、実務上の不合理を回避するための法の趣旨に基づくものである。
問題の所在(論点)
上訴提起後から訴訟記録が上訴裁判所に到達するまでの「空白期間」において、原裁判所は被告人を勾留することができるか。刑訴法60条の解釈および刑訴法97条・刑訴規則92条との整合性が問題となる。
規範
刑法訴訟法60条に勾留の時期に関する制限はない。上訴提起後、訴訟記録が上訴裁判所に到達するまでの間は、急速を要する勾留の性質上、記録を現に管理し事案を把握している原裁判所が勾留の権限を有すると解するのが法の趣旨に合致する。刑訴法97条2項・3項等の規定は既に勾留されている事案を前提とするものであり、原裁判所による新たな勾留を否定する趣旨ではない。
重要事実
被告人に対し、第一審判決の言渡し後かつ上訴提起後において、訴訟記録がまだ控訴裁判所に送付されず原裁判所に存在している段階で、原裁判所が被告人を新たに勾留した。弁護人は、上訴提起後は原裁判所には勾留権限がないとして、大阪高裁の先例(昭和39年)を引用し、原決定の違法を主張して抗告した。
事件番号: 平成19(し)369 / 裁判年月日: 平成19年12月13日 / 結論: 棄却
第1審裁判所で犯罪の証明がないとして無罪判決を受けた被告人を控訴裁判所が勾留する場合,刑訴法60条1項にいう「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」の有無の判断は,無罪判決の存在を十分に踏まえて慎重になされなければならず,嫌疑の程度としては,第1審段階におけるものよりも強いものが要求される。 (補足意見がある…
あてはめ
まず、刑訴法60条には勾留の時期に制限がないため、上訴後であっても要件を満たせば勾留は可能である。次に、管轄について検討するに、記録未到達の段階で上訴裁判所のみに権限を認めると、要件の存否を確認できず実務上勾留が不可能となるが、これは急速を要する勾留の性質に反し不合理である。刑訴法97条等が期間更新等の権限を原裁判所に認めているのと同様、勾留そのものも原裁判所の権限と解すべきである。本件では原裁判所に記録が存在しており、判決後に新たに勾留の必要が生じた場合にこれを行うことは法の予定するところといえる。
結論
原裁判所は、上訴提起後であっても訴訟記録が上訴裁判所に到達するまでは被告人を勾留することができる。したがって、原決定は妥当であり、抗告は棄却される。
実務上の射程
第一審で実刑判決を受けたが勾留されていなかった被告人が、上訴後に逃亡の恐れが生じた場合など、実務上極めて重要な権限分配を画定した判例である。答案上は、勾留の要件に加え「実施主体(管轄)」が問題となる場面で、訴訟記録の所在に着目した実質的理由(急速を要する性質)と共に引用すべきである。
事件番号: 昭和29(し)27 / 裁判年月日: 昭和29年6月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】有罪判決の確定により未決勾留はその効力を失うため、勾留期間更新決定の当否を争う特別抗告は、不服申立ての利益を欠き不適法となる。 第1 事案の概要:申立人は窃盗被告事件に関し、名古屋高等裁判所で控訴棄却の有罪判決を受けた。これに対し上告受理の申立てを行ったが受理されず、昭和29年5月14日に原判決が…
事件番号: 平成23(し)376 / 裁判年月日: 平成23年10月5日 / 結論: 棄却
第1審裁判所が犯罪の証明がないことを理由として無罪の言渡しをした場合であっても,控訴審裁判所は,第1審裁判所の判決の内容,取り分け無罪とした理由及び関係証拠を検討した結果,なお罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり,かつ,刑訴法345条の趣旨及び控訴審が事後審査審であることを考慮しても,勾留の理由及び必要性が認め…
事件番号: 平成12(し)94 / 裁判年月日: 平成12年6月27日 / 結論: 棄却
第一審裁判所が犯罪の証明がないことを理由として無罪の判決を言い渡した場合であっても、控訴審裁判所は、記録等の調査により、右無罪判決の理由の検討を経た上でもなお罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由があると認めるときは、勾留の理由があり、かつ、控訴審における適正、迅速な審理のためにも勾留の必要性があると認める限り、その審…
事件番号: 昭和42(し)26 / 裁判年月日: 昭和42年8月31日 / 結論: 棄却
甲被疑事実による勾留を利用して乙被疑事実につき取り調べた後、いつたん釈放し直ちに乙被疑事実により逮捕勾留した場合において、乙事実について公訴が提起され、その後も勾留理由があるときは、起訴前の段階における右のような勾留およびその勾留中の捜査官の取調べの当否は、起訴後における勾留の効力に影響を及ぼさない。