第1審裁判所で犯罪の証明がないとして無罪判決を受けた被告人を控訴裁判所が勾留する場合,刑訴法60条1項にいう「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」の有無の判断は,無罪判決の存在を十分に踏まえて慎重になされなければならず,嫌疑の程度としては,第1審段階におけるものよりも強いものが要求される。 (補足意見がある。)
第1審裁判所で犯罪の証明がないとして無罪判決を受けた被告人を控訴裁判所が勾留する場合と刑訴法60条1項にいう「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」の有無の判断
刑訴法60条1項,刑訴法345条
判旨
第1審で無罪判決を受けた被告人を控訴審で再度勾留する場合、刑訴法60条1項の「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」の判断は、無罪判決の存在を十分に踏まえて慎重になされるべきであり、嫌疑の程度として第1審段階よりも強いものが要求される。
問題の所在(論点)
第1審で無罪判決を受けた被告人を控訴審において再度勾留する場合の要件、特に刑訴法60条1項にいう「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」の判断基準が問題となる。
規範
第1審で無罪判決を受けた被告人に対し、控訴裁判所が職権で勾留(再勾留)することは許されるが、刑訴法345条の趣旨(無罪判決による勾留状の失効・無罪推定の尊重)に鑑み、以下の基準によるべきである。①「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(刑訴法60条1項)の有無は、無罪判決の存在を十分に踏まえて慎重に判断される必要があり、その嫌疑の程度は第1審段階よりも強いものが要求される。②再勾留にあたって必ずしも新たな証拠の取調べを必要とするものではない。
重要事実
覚せい剤取締法違反等で起訴された被告人に対し、第1審裁判所が犯罪の証明がないとして無罪判決を言い渡し、被告人は釈放された。検察官が控訴したところ、控訴裁判所は訴訟記録が到達した翌日に、職権で被告人を再度勾留した。被告人は在留資格のない外国人で、釈放後は入国管理局に収容され退去強制手続が進められていた。弁護人は、第1審判決の理由を慎重に検討し有罪が予想される場合に限って勾留が許されるべきであり、本件再勾留は違法であると主張して特別抗告した。
事件番号: 平成23(し)376 / 裁判年月日: 平成23年10月5日 / 結論: 棄却
第1審裁判所が犯罪の証明がないことを理由として無罪の言渡しをした場合であっても,控訴審裁判所は,第1審裁判所の判決の内容,取り分け無罪とした理由及び関係証拠を検討した結果,なお罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり,かつ,刑訴法345条の趣旨及び控訴審が事後審査審であることを考慮しても,勾留の理由及び必要性が認め…
あてはめ
本件において、控訴裁判所は記録に基づき、第1審の無罪判決の存在を十分に踏まえて慎重に検討を行っている。第1審判決は被告人の弁解に多くの疑問点があることを認めつつ「合理的疑い」を理由に無罪としたものであるが、控訴裁判所がこれらを踏まえた上でもなお被告人が罪を犯したことを疑うに足りる「第1審段階よりも強い嫌疑(相当な理由)」があると認めたことは、相当として是認できる。また、被告人に在留資格がなく退去強制手続の対象となっていること等の事情に照らせば、勾留の必要性に関する判断にも裁量権の濫用は認められない。
結論
第1審無罪後の控訴審における再勾留は、第1審段階よりも強い嫌疑が認められる場合には適法である。本件の再勾留を是認した原決定に違法はなく、抗告を棄却する。
実務上の射程
第1審無罪後の勾留について「高度の嫌疑」が必要であることを初めて明示した重要判例である。答案上は、刑事訴訟法60条1項の「相当な理由」を解釈する際、345条の趣旨を引いて「無罪判決という事実を尊重し、第1審段階よりも強い嫌疑を要求する」という修正された規範を立てる必要がある。また、被告人が外国人の場合の逃亡のおそれ(勾留の必要性)の判断においても参照される。
事件番号: 平成12(し)94 / 裁判年月日: 平成12年6月27日 / 結論: 棄却
第一審裁判所が犯罪の証明がないことを理由として無罪の判決を言い渡した場合であっても、控訴審裁判所は、記録等の調査により、右無罪判決の理由の検討を経た上でもなお罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由があると認めるときは、勾留の理由があり、かつ、控訴審における適正、迅速な審理のためにも勾留の必要性があると認める限り、その審…
事件番号: 平成11(し)159 / 裁判年月日: 平成11年10月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】第一審で無罪判決を受けた被告人であっても、控訴審判決前に勾留することは、国籍等の属性を理由とする差別でない限り、憲法14条1項に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、第一審において「犯罪事実の証明がない」として無罪判決を受けた。しかし、控訴審において判決前に勾留された。これに対し弁護人は、被告…
事件番号: 昭和40(し)79 / 裁判年月日: 昭和41年10月19日 / 結論: 棄却
一 原裁判所は上訴提起後であつても、訴訟記録がまだ上訴裁判所に到達しない間は、被告人を勾留することができる 二 勾留をする裁判所が、すでに被告事件の審理の際、被告事件に関する陳述を聞いている場合には、改めて刑訴法第六一条のいわゆる勾留質問をしなければならないものではない
事件番号: 昭和29(し)27 / 裁判年月日: 昭和29年6月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】有罪判決の確定により未決勾留はその効力を失うため、勾留期間更新決定の当否を争う特別抗告は、不服申立ての利益を欠き不適法となる。 第1 事案の概要:申立人は窃盗被告事件に関し、名古屋高等裁判所で控訴棄却の有罪判決を受けた。これに対し上告受理の申立てを行ったが受理されず、昭和29年5月14日に原判決が…