一 起訴されていない犯罪事実で、被告人の捜査官に対する自白のほかに証拠のないものを、いわゆる余罪として認定し、これをも実質上処罰する趣旨のもとに重い刑を科することは、憲法第三一条、第三八条第三項覆に違反する。 二 右のような憲法違反を犯している第一審判決を違法ではないとして認容した違憲が原判決にあつても、原判決が、結論において、第一審判決の量刑を不当としてこれを破棄し、自判する際に、余罪を犯罪事実として認定しこれを処罰する趣旨を含めて量刑したものとは認められないときは、右違憲は判決に影響を及ぼさない。
一 起訴されていない犯罪事実を量刑の資料として考慮したことが憲法第三一条第三八条第三項に違反するとされた事例 二 原判決の憲法違反が判決に影響を及ぼさないとして上告が棄却された事例
憲法31条,憲法38条3項,刑訴法319条2項,刑訴法410条1項但書
判旨
起訴されていない犯罪事実(余罪)を、実質的に処罰する趣旨で量刑上被告人を重く処罰することは不告不理の原則及び補強法則の趣旨に反し許されないが、量刑のための一情状として考慮することは許される。
問題の所在(論点)
起訴されていない余罪を量刑の資料として考慮することが、不告不理の原則(憲法31条)や補強法則(憲法38条3項)に抵触し許されないのはどのような場合か。
規範
刑事裁判における量刑は、被告人の性格、経歴、犯罪の動機、目的、方法等の諸事情を考慮して決定されるべきものであり、量刑のための一情状として余罪を考慮することは直ちに禁ぜられない。しかし、余罪を実質的に処罰する趣旨で量刑の資料とし、被告人を重く処罰することは、不告不理の原則に反し、適正手続(憲法31条)を侵害するのみならず、自白のみによる処罰を禁じた補強法則(憲法38条3項)の制約を免れるおそれがあるため許されない。
重要事実
被告人は郵便物窃取の罪で起訴された。第一審判決は、公訴事実以外に、被告人が過去に約3000通の郵便物を窃取し多額の現金を盗んだという余罪(一部は自白のみ)を詳細に認定した上で、「この事実を考慮に入れないわけにはいかない」と断定し、被告人を重い刑に処した。原判決は、第一審の判断を「犯行の罪質ないし性格を判別する資料としたに過ぎない」として是認した上で、量刑不当を理由に第一審を破棄し、自ら刑を言い渡した。
あてはめ
第一審判決は、余罪の期間、回数、被害額が多大であることに基づき、余罪を実質的に処罰する趣旨で被告人に重い刑を科したものと認められる。これは憲法31条に違反する。また、余罪の一部を被告人の自白のみによって認定しており、実質において自己に不利益な唯一の証拠である自白により刑罰を科したものといえ、憲法38条3項にも違反する。原判決がこれを一情状としての考慮にすぎないと判断した点も憲法違反に帰着する。もっとも、原判決の結論自体は、第一審を量刑不当で破棄し、余罪処罰の趣旨を含めず自ら量刑しているため、判決に影響を及ぼさない。
結論
余罪を実質的に処罰する趣旨で重く処罰することは違憲であり許されない。ただし、単なる情状として考慮すること、および本件のように判決に影響を及ぼさないことが明らかな場合は、判決を破棄する理由とはならない。
実務上の射程
量刑における「情状としての考慮」と「実質的な処罰」の境界が論点となる。答案上は、判決文が余罪の態様を詳細に認定し、それを主たる理由として刑を跳ね上げている場合は「実質的処罰」に当たり違法と論じる。逆に、犯行の反復性や性格を示す資料に留まる場合は適法となる。本判決は憲法38条3項(補強法則)の脱法を指摘している点も重要である。
事件番号: 昭和40(あ)878 / 裁判年月日: 昭和41年7月13日 / 結論: 棄却
起訴されていない犯罪事実をいわゆる余罪として認定し、実質上これを処罰する趣旨で量刑の資料に考慮することは許されないが、単に被告人の性格、経歴および犯罪の動機、目的、方法等の情状を推知するための資料としてこれを考慮することは、憲法第三一条、第三九条に違反しない。