一 麻薬取締法第三九条第一項第二号にいう「当該麻薬診療施設の開設者が譲り渡した麻薬」には、右施設で診療に従事する麻薬施用者が施用のために患者に交付した麻薬を含むものと解すべきである。 二 同法同条同項同号による麻薬管理者の記帳義務は、麻薬施用者が同法第四一条に則り診療簿に施用に関する記録をしているからといつて、これを免れることはできない。
一 麻薬取締法第三九条第一項第二号にいう「当該麻薬診療施設の開設者が譲り渡した麻薬」の意義。 二 同法同条同項同号と同法第四一条の関係。
麻薬取締法39条1項2号,麻薬取締法41条,麻薬取締法24条1項
判旨
麻薬取締法上の麻薬管理者が負う記帳義務の対象には、麻薬施用者が診療に従事する際に患者へ交付した麻薬も含まれる。また、麻薬施用者が診療簿に記録をしていたとしても、麻薬管理者の帳簿記載義務は免除されない。
問題の所在(論点)
1. 麻薬施用者が患者に交付した麻薬は、麻薬管理者の記帳義務の対象である「開設者が譲り渡した麻薬」に含まれるか。2. 麻薬施用者が診療簿に記録を行っている場合、麻薬管理者の帳簿記載義務は免除されるか。
規範
麻薬取締法(現行の麻薬及び向精神薬取締法)39条1項2号にいう「当該麻薬診療施設の開設者が譲り渡した麻薬」には、当該施設で診療に従事する麻薬施用者が、施用のために患者に交付した麻薬が含まれる。また、同法に基づく麻薬管理者の帳簿記載義務は、麻薬施用者が同法41条(現行32条等参照)に基づき診療簿に施用記録を行っている場合であっても、別個独立の義務として免れることはできない。
重要事実
被告人は麻薬診療施設の麻薬管理者であったが、同施設の麻薬施用者が患者に対して施用のために交付した麻薬について、法所定の帳簿にその品名、数量、年月日を記載しなかった。弁護人は、施用者による交付は「開設者が譲り渡した麻薬」に該当しないこと、および施用者が診療簿に記録している以上は記帳義務を負わないことを主張して争った。
あてはめ
麻薬診療施設において麻薬施用者が行う施用・交付行為は、施設の管理運営の一環として行われるものであるから、その実態は「開設者が譲り渡した」ものと同視できる。したがって、管理者はその出納を正確に把握するため帳簿に記載すべき義務を負う。また、診療簿への記録は施用者の義務であり、麻薬の適正な流通・保管を目的とする麻薬管理者の帳簿記載義務とは制度上の趣旨を異にする。ゆえに、診療簿の存在を理由に管理者の義務を否定することはできない。
結論
麻薬管理者は、麻薬施用者が交付した麻薬についても帳簿に記載する義務を負い、診療簿への記録があることをもってその義務を免れることはできない。
実務上の射程
行政法規の解釈において、複数の主体に異なる報告・記録義務が課されている場合、一方が履行されていることをもって他方の義務が当然に免除されるわけではないことを示す。麻薬取締法違反の構成要件解釈において、実効的な管理体制を重視する立論に有用である。
事件番号: 昭和27(あ)6363 / 裁判年月日: 昭和29年7月16日 / 結論: 破棄差戻
一 旧麻薬取締法(昭和二三年法律第一二三号、昭和二八年法律第一四号により廃止)第一四条第一項の帳簿記入義務は、麻薬取締者が正規の手続を経ていない麻薬を取り扱つた場合でも、これを免れ得ないものと解するのが相当である。 二 原判決は、正規の手続を経ていない麻薬の取扱に関する事実を帳簿に記入することは、その違反行為の発覚の端…