一 農業協同組合の支部が、独立の会計を有していることなどにより、独立の団体としての実質を具えているものと認められる場合には、その支部は、刑法第一九七条の二、第一九七条の五にいう第三者にあたるものと解される。 二 前項の場合において、右支部の代表者が、その支部を第三者とする刑法第一九七条の二の罪について、被告人として弁解、防禦の機会を与えられているときは、同法第一九七条の五によりその支部から賄賂の価額を追徴するにあたり、同支部に対しても、実質上弁解、防禦の機会が与えられていたものということができる。
一 刑法第一九七条の二、第一九七条の五にいう第三者にあたるものとされた事例。 二 刑法第一九七条の五に基づいて第三者から賄賂の価額を追徴するにあたりその第三者に対して実質上弁解防禦の機会が与えられたものとされた事例。
刑法197条の2,刑法197条の5
判旨
法人格を有しない団体であっても、独立の会計を有し独立の団体としての実質を具備していれば、刑法197条の2及び197条の5にいう第三者に該当し、追徴を命ずることができる。また、当該団体の代表者が被告人として弁解・防禦の機会を与えられていた場合には、当該団体に対しても実質的に適正手続の保障が及んでいると解される。
問題の所在(論点)
1. 法人格を有しない団体が、刑法197条の2(第三者供賄罪)及び197条の5(没収・追徴)にいう「第三者」に該当するか。 2. 訴訟当事者ではない第三者たる団体に対し、別途告知・聴聞の手続を履むことなく追徴を命ずることは、憲法31条(適正手続)及び29条(財産権)に違反するか。
規範
1. 刑法197条の2及び197条の5にいう「第三者」とは、自然人及び法人に限られず、法人格を有しない団体であっても、代表者の定めがあり、独立の会計を有する等、独立の団体としての実質を具えて財産を保有し得るものであればこれに当たる。 2. 憲法31条、29条の要請する適正手続の保障に関し、第三者たる団体に対して追徴を命ずる場合であっても、その代表者が被告人として公判手続を通じ当該犯罪事実につき弁解・防禦の機会を与えられていたのであれば、当該団体に対しても実質上弁解・防禦の機会が与えられていたものと認められ、憲法に違反しない。
重要事実
被告人A(公務員)は、その職務に関し請託を受け、賄賂をB農業協同組合a支部に供与させた。a支部は法人格を有していなかったが、支部長(被告人A)等の役員を置き、本部とは独立の会計を有し、事実上支部の決議で財産を処分できるなどの実態を有していた。第一審及び原審は、a支部を刑法197条の2等の「第三者」と認定し、a支部から賄賂相当額の追徴を命じた。これに対し被告人側が、a支部は独立の団体ではなく追徴の客体とならないこと、及び、a支部に弁解の機会を与えず追徴を命じることは違法・違憲であると主張して上告した。
あてはめ
1. a支部は、支部長等の役員を置き、本部から独立した会計を有して事業を営み、事実上の財産処分権も有していた。このような実態に鑑みれば、法人格こそ有しないが独立の団体としての実質を具備しているといえるため、刑法上の「第三者」としての被追徴適格を有する。 2. a支部の代表者である被告人Aは、本件公判手続において被告人として審理を受け、犯罪事実について防禦の機会を十分に与えられている。法人の意思決定や防禦を担うのは代表者である以上、Aが被告人として防禦を行えば、代表されるa支部にとっても実質的に弁解の機会が確保されていたといえる。したがって、改めて形式的な告知・聴聞手続を履まなくても、憲法が要求する適正手続の保障を欠くものではない。
結論
法人格のない団体であっても、独立の団体としての実質を具備していれば追徴の対象となる。また、その代表者が被告人として防禦機会を得ていれば、当該団体に対する追徴も憲法に違反しない。本件各上告を棄却する。
実務上の射程
第三者没収・追徴における適正手続(第三者没収手続)の射程を画する重要判例である。代表者が被告人である場合には別途の手続が不要とされる一方で、反対意見等に見られる「被告人と第三者の利益相反」の可能性については、答案作成上、事案に応じた個別検討の余地を残す視点として有用である。
事件番号: 昭和27(あ)4976 / 裁判年月日: 昭和29年8月20日 / 結論: 棄却
一 刑法第一九七条ノ二の罪が成立するためには、公務員が其の職務に関する事項につき、依頼を受けてこれを承諾し、供与者が第三者に供与した利益がその公務員の職務行為に対する代償たる性質を有すれば足り、右第三者は個人たると地方公共団体その他の法人たるとを問わない。 二 刑法第一九七条ノ二の罪において第三者たる法人の代表者が賄賂…
事件番号: 昭和28(あ)4586 / 裁判年月日: 昭和29年6月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】贈賄罪における供与の相手方は、公務員個人であることを要し、その地位にある個人に対して職務に関し金員を支出した場合は、仮に名目が事業所宛てであっても同罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人が各業者に対し、金員を支出させた事案である。当該金員は、形式上は事業所に対して支出された形をとっていたが、実情…