一 公職選挙法第一四二条の規定は、選挙運動期間前の行為にも適用がある。 二 同条は憲法第二一条に違反しない。 三 本人の写真、経歴を掲げ「大なる政治家として大成させて戴きたい」等の記載をした本件文書は、公職選挙法第一四二条第一項の違法文書に当る。
一 公職選挙法第一四二条の適用範囲。 二 同条の合憲性。 三 同条の違法文書に当るとされた事例。
公職選挙法142条,公職選挙法146条,公職選挙法243条3号,憲法21条
判旨
公職選挙法142条が選挙運動のための文書頒布を制限することは、選挙の自由公正を確保するための必要かつ合理的な制限として、憲法21条に違反しない。また、同条の制限は、同法146条と異なり選挙運動期間中に限定されず、期間前の行為にも適用される。
問題の所在(論点)
1. 公職選挙法142条1項の文書頒布制限が憲法21条に違反しないか。2. 同条の制限は選挙運動期間前の行為にも適用されるか。
規範
表現の自由(憲法21条1項)は絶対無制限ではなく、公共の福祉のために必要かつ合理的な制限を受ける。選挙における文書頒布の規制は、文書の無制限な頒布が招く不当な競争を防止し、選挙の自由公正という適正公平を確保するために必要かつ合理的な範囲内であれば、合憲である。
重要事実
被告人は、選挙運動期間前において、本人の写真や経歴を掲げ「大なる政治家として大成させて戴きたい」等と記載された文書を郵送した。当該行為が、選挙運動のために使用する通常葉書等の頒布を制限する公職選挙法142条1項に抵触するとして起訴された事案である。
あてはめ
1. 文書図画の無制限な頒布を許容すれば、選挙運動に不当な競争を招き、選挙の自由公正を害するおそれがある。本規定は、かかる弊害を防止し選挙の適正公平を確保するという「公共の福祉」を目的としており、その制限は必要かつ合理的な範囲内といえる。2. 同法146条は「選挙運動期間中は」と明示しているが、142条にはその記載がない。文理上、142条は選挙運動期間中に限らず、期間前の選挙運動行為についても適用されると解される。本件文書は内容からして選挙運動のために使用するものと認められるため、期間前であっても同条の適用を受ける。
結論
公職選挙法142条は憲法21条に違反せず、選挙運動期間前の頒布行為に対しても適用される。したがって、被告人を処断した原判決は正当である。
実務上の射程
選挙運動の規制に関する憲法判断のリーディングケース。目的が選挙の公正確保(公共の福祉)にある場合の表現の自由の制約を「必要かつ合理的」な範囲で肯定する枠組みを示す。あてはめでは、条文間の文理比較による適用範囲の画定も重要となる。
事件番号: 昭和59(あ)1134 / 裁判年月日: 昭和61年11月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法142条1項による文書図画の頒布制限は、表現の自由を保障する憲法21条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人は、選挙運動に関し、公職選挙法142条1項が認める法定のハガキ等以外の文書図画を頒布したとして、同法違反で起訴された。弁護人は、同項の規定が表現の自由を侵害し憲法21条に違反する…