一 公証人に対し虚偽の申立をなし、公証人をして公正証書の原本に不実の記載をさせた場合において、嘱託人の一方が日本語を解しないのにかかわらず、公証人が公正証書を作成するに当り通事を立ち会わせず、通事をして証書の趣旨を右嘱託人に通訳させなかつた等その作成手続上の瑕疵があつたとしても、当該公正証書が一般人をしてその内容を真正なものと誤信させるに足ると認められるときは、公正証書原本不実記載罪が成立する。 二 税関の輸入許可を得て自動車を保税倉庫から引き取り現実に入手した以上は、未だ道路運送車輛法による登録を受けず、自らこれを運行の用に供することが禁止されているとしても、関税法第二条第一号の「引き取り」があつたものと解して妨げない。
一 道路運送車輛法による自動車登録の有無と関税法上の「引き取り」の存否 二 公正証書の作成手続中の瑕疵と公正証書原本不実記載罪の成否
刑法157条1項,公証人法29条,公証人法30条,公証人法39条1項ないし3項,関税法2条1号,道路運送車輛法4条,道路運送車輛法5条
判旨
未登録の自動車であっても所有権の移転や使用は可能であり、関税法上の「引取り」に当たると解される。また、公正証書の作成手続に瑕疵があっても、公正証書原本不実記載罪の客体となる真正に成立した公文書としての性質を失うものではない。
問題の所在(論点)
1. 道路運送車両法上の未登録自動車について、関税法上の「引取り」が認められるか。2. 作成手続に瑕疵のある公正証書について、公正証書原本不実記載罪(刑法157条1項)の成立に影響する公文書の真正な成立が認められるか。
規範
1. 道路運送車両法による未登録の自動車であっても、私法上の所有権移転や事実上の使用は妨げられず、関税法上の「引取り」の対象となり得る。2. 刑法157条1項の公正証書原本不実記載罪において、公正証書の作成手続に瑕疵があったとしても、直ちにその不成立を意味するものではなく、真正に成立したものと認められる限り同罪の客体となり得る。
事件番号: 昭和35(あ)2363 / 裁判年月日: 昭和39年9月29日 / 結論: 破棄差戻
日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律(昭和二九年法律第六一号による改正前のもの)第一二条第一項は、合衆国軍隊、その構成員等以外の者が、同第六条掲記の関税免除物品を日本国内において譲受けよ…
重要事実
被告人らは、免税通関前に自動車の譲渡を受けた。当該自動車は道路運送車両法に基づく登録が未了の状態であった。また、本件に関わる公正証書の作成手続において、何らかの手続上の瑕疵が存在していたが、原審は当該公正証書を真正に成立したものと認定していた。
あてはめ
1. 道路運送車両法108条1号の罰則規定は存在するものの、未登録であることが所有権移転や使用そのものを法律上不可能にするものではない。したがって、実態として譲渡が行われた以上、関税法上の引取りがあったと判断するのが相当である。2. 公正証書の成立過程に手続上の瑕疵があったとしても、不実の記載がなされる対象としての公文書の形式的・実質的性質が失われるわけではない。原審が証拠に基づき真正に成立したと認定した以上、刑法157条1項の法意に照らして同罪の対象となる。
結論
未登録自動車の譲渡も関税法上の引取りに該当し、また手続に瑕疵ある公正証書であっても真正に成立したと認められる限り、公正証書原本不実記載罪が成立する。上告棄却。
実務上の射程
行政上の取締法規(道路運送車両法)の違反や、公文書作成における手続的瑕疵が、直ちに刑事法上の構成要件該当性(関税法上の引取りや刑法上の公文書の成立)を否定するものではないという判断の枠組みを示した。特に公正証書については、手続的瑕疵よりも実質的な真正成立の有無を重視する点に射程がある。
事件番号: 昭和57(あ)709 / 裁判年月日: 昭和58年11月24日 / 結論: 棄却
一 道路運送車両法に規定する電子情報処理組織による自動車登録フアイルは、刑法一五七条一項にいう「権利、義務ニ関スル公正証書ノ原本」にあたる。 二 道路運送車両法に規定する電子情報処理組織による自動車登録フアイルの「使用の本拠の位置」又は「使用者の住所」についての虚偽の記載は、刑法一五七条一項にいう「不実ノ記載」にあたる…
事件番号: 昭和38(あ)783 / 裁判年月日: 昭和39年7月20日 / 結論: 棄却
輸入貨物について、当初より関税及び物品税を免れる目的をもつて虚偽の申告をして免税輸入の許可を受け、関税及び物品税を免れる罪は当該輸入貨物を保税地域より引取つたときに成立し、その後において用途外使用の申請をして関税及び物品税を納付しても一たん成立した罪が消滅することはない。
事件番号: 昭和38(あ)2436 / 裁判年月日: 昭和39年6月2日 / 結論: 棄却
被告人は登記簿上の建物所有名義人甲との間に現実の売買の事実がないのに拘らず、売買契約が成立した旨虚偽の証書を作成し、売買を登記原因として所有権移転登記を申請し、その旨登記簿原本に記載させるなど原判示所為に出たものであるときは、たとえ、右建物の真実の所有者が被告人であり、甲が将来その登記名義を被告人に変更することを予め諒…