一 憲法第三五条は、捜索、押収については、その令状に、捜索する場所および押収すべき物を明示することを要求しているにとどまり、その令状が正当な理由に基いて発せられたことを明示することまでは要求していないものと解すべく、捜索差押許可状に被疑事件の罪名を、適用法条を示して記載することは憲法の要求するところではない。 二 捜索差押許可状に罪名を記載するにあたつては、適用法条まで示す必要はない。
一 憲法第三五条と捜索差押許可状の記載事項。 二 捜索差押許可状には、罪名のほか適用法条を記載することを要するか。
憲法35条,刑訴法219条
判旨
憲法35条が要求する令状への記載事項は捜索場所及び押収物の明示であり、正当な理由の明示や適用法条の記載までは要求されていない。また、押収すべき物として「その他本件に関係ありと思料せられる一切の文書及び物件」と記載されていても、具体的な例示が付随し、被疑事件との関連性が客観的に特定できる場合は、物の明示を欠くとはいえない。
問題の所在(論点)
1. 捜索差押許可状に「適用法条」を記載しないことが、憲法35条(令状主義)に反するか。 2. 押収すべき物として「本件に関係ありと思料せられる一切の物件」という包括的記載を含めることが、憲法35条の要求する「押収する物の明示」に反するか。
規範
1. 令状への記載事項について、憲法35条は捜索する場所及び押収する物の明示を要求しているにとどまり、正当な理由の明示や適用法条の記載までは求めていない。したがって、刑事訴訟法219条1項に基づく罪名の記載において適用法条を示す必要はない。 2. 押収すべき物の特定(明示)については、包括的な記載が含まれていても、具体的な例示が付加され、その例示物件に準じるものとして被疑事件との関連性を読み取れるのであれば、特定を欠くものではない。
重要事実
事件番号: 昭和33(し)20 / 裁判年月日: 昭和33年7月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法35条が要求する捜索差押令状の明示事項は場所と物であり、罪名の記載にあたり適用法条まで示す必要はない。また、「一切の文書及び物件」との記載も、具体的な例示が付随し、被疑事件との関連性が客観的に明らかであれば、物の明示として有効である。 第1 事案の概要:地方公務員法違反の被疑事件に関し、捜索差…
地方公務員法違反被疑事件において、裁判官が捜索差押許可状を発付した。当該許可状には、罪名が記載されていたが適用法条の記載はなかった。また、押収すべき物として「会議議事録、闘争日誌、指令、通達類、連絡文書、報告書、メモ」という具体的な例示に続けて、「本件に関係ありと思料せられる一切の文書及び物件」という包括的な記載がなされていた。これに対し、抗告人は令状の記載が憲法35条の要求する明示を欠いていると主張して争った。
あてはめ
1. 憲法35条は、捜索場所と押収物の「明示」を要求しているが、令状が発せられた「理由」自体の記載や「適用法条」の明記までを強制する趣旨ではない。刑法219条1項が定める「罪名」の記載についても、適用法条まで示す必要はないと解される。 2. 物の特定について、本件の「一切の文書及び物件」との記載は、会議議事録や闘争日誌といった具体的な例示に附加されたものである。これは、記載された地方公務員法違反被疑事件に関係し、かつ例示物件に準じる性質の闘争関係文書を指すことが明らかであるといえる。したがって、捜査機関の恣意を許すような不明確な記載とは評価できず、憲法上の「明示」の要件を満たしている。
結論
捜索差押許可状に適用法条の記載がなくとも、また例示物件に「一切の物件」との包括的記載が付随していても、憲法35条及び刑事訴訟法219条1項に違反しない。
実務上の射程
令状の記載事項(憲法35条、刑訴法219条)に関するリーディングケースである。特に「一切の文書及び物件」という概括的記載の有効性については、具体的な例示がある場合に限定して適法性を認める趣旨であり、答案上では「被疑事件との関連性」と「具体的例示の有無」をメルクマールとして検討する際に引用する。
事件番号: 昭和35(し)5 / 裁判年月日: 昭和35年2月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】請願権の行使を目的とする行為であっても、管理者の意思に反して国会構内に立ち入る行為は建造物侵入罪を構成し、正当な請願行為とは認められない。 第1 事案の概要:被疑者Aは、日米安全保障条約改定阻止を目的とする請願運動に際し、他の者と共謀の上、国会構内の管理者の意思に反して同構内に立ち入った。これに対…
事件番号: 昭和63(し)63 / 裁判年月日: 平成元年3月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】捜査機関の請求に基づき裁判官が発した捜索許可状の裁判に対し、刑事訴訟法419条の抗告を申し立てることはできない。この解釈は、準抗告等の不服申立手段が他に存在しない場合であっても、憲法32条および35条1項に違反しない。 第1 事案の概要:捜査機関が東京簡易裁判所の裁判官に対し、捜索許可状の請求を行…
事件番号: 昭和51(し)132 / 裁判年月日: 昭和51年12月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】司法警察員が所持人の任意提出を求め、これを受けて提出された所持品を領置した行為は、本人の意に反する強制的な行為に及んだと認められない限り、憲法35条に違反しない。 第1 事案の概要:司法警察員が申立人に対し、その所持品の任意提出を求めた。申立人はこれに応じて所持品を提出し、司法警察員はこれを領置し…