一 地方税法(昭和25年法律第二二六号)に規定された遊興飲食税の特別徴収制度は、憲法第一一条、第一二条、第一三条、第二二条および第二九条に違反しない。 二 同法第一二二条第一項は、憲法第三一条、第三六条に違反しない。 三 同法第一二条第一項は、憲法第二一条に違反しない。 四 同法第一二条第一項にいう煽動とは、同条項に掲げた所為のいずれかを実行させる目的で文書もしくは図画または言動によつて、他人に対し、その行為を実行する決定を生ぜしめるような、または既に生じている決意を助長させるような勢のある刺戟を与えることをいう。
一 地方税法(昭和二五年法律第二二六号)に規定された遊興飲食税の特別徴収制度の合憲性 二 同法第一二二条第一項の合憲性 三 同法第一二条第一項の合憲性 四 同法第一二条にいう煽動の意義
憲法11条,憲法12条,憲法13条,憲法14条,憲法21条,憲法22条,憲法29条,憲法31条,憲法36条,地方税法(昭和25年法律226号)12条1項,地方税法(昭和25年法律226号)118条,地方税法(昭和25年法律226号)119条,地方税法(昭和25年法律226号)122条1項
判旨
遊興飲食税の特別徴収制度は、徴税の効率化と公共の福祉の観点から合理的根拠があり、憲法30条、84条等に違反しない。また、納税拒否を煽動する行為を処罰する規定も、言論の自由の合理的制限として憲法21条に適合する。
問題の所在(論点)
1. 遊興飲食税の特別徴収制度および不納入に対する罰則は、租税法律主義(憲法30条、84条)や財産権(29条)等に違反するか。 2. 納税拒否の煽動を処罰する規定は、表現の自由(21条)に違反するか。また「煽動」の概念は明確か。
規範
1. 憲法30条、84条の租税法律主義は、課税要件のみならず徴収方法も法律で定めることを要する。第三者に徴収・納入させる特別徴収制度は、徴税の確保に不可欠で合理的根拠がある限り合憲である。 2. 憲法21条の言論の自由は絶対無制限ではなく、公共の福祉による制限を受ける。納税義務の不履行を煽動する行為は公共の福祉を害するため、これを処罰することは許される。 3. 「煽動」とは、特定の行為を実行させる目的で、他人に対しその実行の決意を生じさせ、又は既にある決意を助長させるような勢いのある刺激を与えることをいう。
重要事実
被告人は、料理店の経営者等として遊興飲食税の特別徴収義務者に指定されていたが、徴収すべき税金を納入期限までに納入しなかった。また、他者に対して納税や特別徴収を拒否するように煽動したとして、地方税法違反(不納入罪および煽動罪)に問われた。被告人側は、特別徴収制度が経営者に一方的な負担を強いるものであり、また煽動罪の規定が表現の自由を侵害し、かつ概念が不明確であるとして違憲を主張した。
あてはめ
1. 遊興飲食税を担税者から直接徴収することは多大な費用と手数を要し、徴税の確保が困難である。特別徴収制度は、徴税手続の簡素化、費用の節減、紛争の回避に資するものであり、公共の福祉に適合する。経営者に負担は生じるが、徴税の実を挙げるために「真に已むを得ない」措置であり合理的根拠がある。 2. 納税義務の不履行を慫慂する煽動行為は、地方団体の財政基盤を脅かし公共の福祉を害する。したがって、これを処罰することは言論の自由の範囲を逸脱するものとして許容される。 3. 「煽動」の概念は、判例上「他人に行為を実行させる決意を生じさせる等の勢いのある刺激」と定義されており、不明確とはいえない。
結論
1. 遊興飲食税の特別徴収制度および不納入罪の規定は、憲法30条、84条等に違反しない。 2. 納税拒否の煽動を処罰する規定は、憲法21条に違反しない。本件上告を棄却する。
実務上の射程
租税法律主義が徴収手続にも及ぶことを明示した重要判例である。また、行政上の義務履行を確保するための刑事罰の合理性や、言論の自由の限界(公共の福祉による制約)を論ずる際の枠組みとして活用できる。「煽動」の定義は、現在でも公安条例事件等と並び、処罰規定の明確性を論じる際の標準的な解釈指針となる。
事件番号: 昭和27(あ)1637 / 裁判年月日: 昭和28年4月30日 / 結論: 棄却
栃木県税賦課徴収条例六八条は旧地方税法三六条の委任に基くものであり同条令二七条二項は同法七五条の委任に基いて定められたものと解すべきである。