甲がその所有にかかる不動産を第三者に売却し所有権が移転したものと認められる場合に、未だその旨の登記を了していないことを奇貨とし、乙に対し右不動産を売却しその旨の登記を了する所為は、横領罪を構成する。
不動産のいわゆる二重売買が横領罪を構成する事例。
刑法252条1項
判旨
不動産を二重売買した場合において、売主が第一の買主に所有権が移転した後、重ねて第二の買主に売却する行為は、他人の物の占有者がこれを処分したものとして横領罪(刑法252条1項)を構成する。
問題の所在(論点)
不動産の二重売買において、第一の買主に所有権が移転した後に売主が行った第二の売却行為について、横領罪(刑法252条1項)が成立するか。
規範
不動産の売買において、既に第一の買主へ所有権が移転している場合、売主は当該不動産を「他人の物」として「保管」する立場にある。この状態において、売主がさらに第三者へ当該不動産を売却する行為は、不法領得の意思の発現として横領罪の構成要件に該当する。
重要事実
被告人は、本件不動産を既に第一の買主Bに対して売却し、その所有権をBに移転させていた。しかし、被告人はその後、重ねて同一の不動産を第二の買主Aに対して売却(二重売買)した。第一審判決はこれを横領罪と認定し、原判決もこれを是認したため、被告人が上告した。
あてはめ
本件では、被告人が本件不動産を第二の買主Aに売却した時点において、既に第一の買主Bへ所有権が移転していたと認められる。この場合、被告人は形式的な登記名義等を利用して他人の所有物(Bの所有物)を占有・保管する立場にありながら、これについて売却という権限のない処分を行ったといえる。したがって、被告人の所為は他人の物の横領にあたる。
結論
被告人が不動産をBに二重売買した当時、既に所有権が第一の買主に移転していた以上、被告人の行為は横領罪を構成する。
実務上の射程
不動産の二重譲渡が横領罪を構成することを明示した基本的判例である。答案上は、登記の有無にかかわらず「所有権の移転」という実体関係を重視し、売主が「他人の物の占有者」にあたることを論証する際に用いる。背任罪との区別が議論されることもあるが、判例の立場は横領罪の成立を肯定するものである。
事件番号: 昭和31(あ)3761 / 裁判年月日: 昭和35年5月6日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】横領罪の成立には「自己の占有する他人の物」であることを要するため、被告人が土地を売却した時点で当該土地が買主の所有に属していたかが厳格に確定されなければならない。無権利者が土地を売却した後、後に所有権を取得したとしても、直ちに買主が所有権を取得したと解して横領罪を認めることはできない。 第1 事案…