一 共犯者たる共同被告人が数名あつて、いずれも、公判で、公訴事実を全面的に否認している場合、検察官が証拠として同被告人等の検察官に対する供述調書を一括して取調請求をしたときは、特段の事情がない限り、同供述調書は、刑訴第三二二条第一項および第三二一条第一項第二号により、当該被告人に対する関係のみならず、相被告人等に対する関係においても、また、その取調の請求があつたものと解するのが相当である。 二 共犯者たる共同被告人が数名あつて、いずれも、公判で、公訴事実を全面的に否認している場合、検察官が証拠として同被告人等の検察官に対する供述調書を一括して取調請求をしたときは、特段の事情がない限り、同供述調書は、刑訴第三二二条第一項および第三二一条第一項第二号により、当該被告人に対する関係のみならず、相被告人等に対する関係においても、また、その取調の請求があつたものと解するのが相当である、この場合、同供述調書の証拠調前に各被告人に対し相被告人等を尋問する機会を与えなかつたかしがあつたとしても、裁判所が右供述調書を録取した検察事務官を証人として取調べ、検察官に対し同調書の提示を命じ、その証拠調をした後に、各被告人に詳細に質問し、また各被告人をして相被告人等に対する尋問をさせているときは、前示かしは既に治癒されたものと解するのが相当である。
一 被告人の検察官に対する供述調書が刑訴法第三二二条第一項および第三二一条第一項第二号の書面として取調請求がなされたものと認められる事例 二 証拠調に関するかしが治癒されたと認められる事例
刑訴法298条1項,刑訴法322条1項,刑訴法321条1項2号,刑訴法291条2項,刑訴法311条3項,刑訴規則189条,刑訴規則192条,憲法37条2項
判旨
被告人の自白が拘禁後相当の日数を経過した後のものであっても、事案の性質や取調の困難性等に照らし不当に長い拘禁とはいえない場合には、憲法及び刑訴法上の自白排除法則には抵触しない。また、共同被告人の供述調書は、特段の事情がない限り相被告人との関係でも証拠調がなされたものと解され、手続上の瑕疵も後の措置により治癒され得る。
問題の所在(論点)
1. 相当期間の拘禁後に得られた自白が、憲法38条2項及び刑訴法319条1項にいう「不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」として証拠能力を否定されるか。 2. 共同被告人の供述調書の証拠調べ手続に瑕疵がある場合、その証拠能力は認められるか。
規範
自白の任意性については、拘禁期間の長さのみならず、事案の性質、関係者の人数、取調の難易等の諸事情を総合して、不当に長い拘禁による自白といえるか否かを判断する。また、共犯者の供述調書等の証拠調べ手続において、形式的な瑕疵があったとしても、その後の公判手続において適切な措置が講じられれば、当該瑕疵は治癒され、適法な証拠として許容される。
事件番号: 昭和28(れ)41 / 裁判年月日: 昭和29年2月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不当に長く拘束された後の自白であっても、拘束前の自白内容を繰り返したにすぎないなど、拘束と自白との間に因果関係が認められない場合には、証拠能力は否定されない。 第1 事案の概要:被告人Aは、昭和21年12月23日に勾留状が発付される前の段階で、検事の聴取に対し自白を行っていた。その後、被告人は相当…
重要事実
被告人Aら複数名が関与した事件において、Aが拘禁から相当の日数を経過した後に自白を行った。弁護側は、この拘禁がいわゆる「たらい廻し」によるものであり、不当に長い拘禁下の自白であるとして任意性を否定し、憲法38条2項等に違反すると主張した。また、共同被告人B・Cの供述調書についても、証拠調べ手続に瑕疵がある旨を主張してその証拠能力を争った。
あてはめ
1. 本件では、Aの自白まで相当の日数を要しているが、事案の性質が複雑であること、関係者が多数に上ること、及び取調が容易ではなかったこと等の事情が認められる。これらに鑑みれば、本件の拘禁は「たらい廻し」とはいえず、不当に長い拘禁後の自白とは断じ難い。また、取調過程に強制や脅迫等の事実はなく、調書の形式・内容からも任意性を疑うべき事跡はない。 2. 共犯者の調書については、特段の事情がない限り相被告人との関係でも証拠申請・証拠調べがなされたと解するのが相当である。仮に手続に瑕疵があったとしても、第一審裁判所が適切な措置を講じている以上、瑕疵は治癒されている。
結論
被告人Aの自白は不当に長い拘禁後のものとはいえず、任意性に疑いはない。また、共同被告人の調書も適法な証拠調べを経たものと認められるため、証拠能力は肯定される。
実務上の射程
自白の任意性判断における「不当に長い拘禁」の意義を、事案の複雑性等の具体的事状との相関で判断する実務上の枠組みを示している。また、伝聞証拠や証拠調べ手続の瑕疵について「治癒」の概念を認めており、公判手続の全体を通じた適正手続の確保を重視する姿勢を示している。
事件番号: 昭和45(あ)2541 / 裁判年月日: 昭和46年4月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不当に長い拘禁後の自白(憲法38条2項、刑訴法319条1項)に該当するか否かは、単なる拘束期間の長短のみならず、事案の内容や手続の経過、その他諸般の事情を総合的に勘案して判断される。 第1 事案の概要:被告人は、昭和45年5月4日に逮捕され、同月7日に勾留状の執行を受けた。その後、同年6月19日の…
事件番号: 昭和32(あ)1129 / 裁判年月日: 昭和35年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不当に長く抑留または拘禁された後の自白であっても、その任意性が十分認められる場合には、憲法38条2項により証拠能力が否定されることはない。 第1 事案の概要:被告人らは、共産党員やその支持者、朝鮮人であることを理由とした政治的弾圧であると主張して上訴した。また、供述調書の作成にあたり、不当に長く抑…
事件番号: 昭和30(あ)434 / 裁判年月日: 昭和30年11月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の供述が強制や拷問によるものであるという主張について、これを認めるべき証拠がない場合には、憲法違反等の上告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人および弁護人が、原審における証人または被告人の供述が強制や拷問によって得られたものであると主張し、憲法違反を理由に上告を申し立てた事案である…