自己の過失により事務室内の炭火が机に引火し、燃焼しはじめているのを仮睡から醒めて発見した者が、そのまま放置すれば右事務所を焼燬するに至ることを認識しながら、自己の失策の発覚をおそれる等のため、右結果の発生を認容して何らの措置をすることなくその場から逃げ去つたときは、不作為による放火の責任を負うべきである。
不作為による放火罪の成立する事例。
刑法108条
判旨
自己の重過失により発生した火災を、容易に消火し建物への延焼を防止できたにもかかわらず、建物の焼燬を認容して放置した不作為は、現住建造物等放火罪(刑法108条)の実行行為にあたる。
問題の所在(論点)
自己の重過失による先行行為によって火災が発生した場合において、建物の焼燬という結果を認容しながら消火措置を講じない不作為が、現住建造物等放火罪(刑法108条)の実行行為にあたるか。特に先行行為に基づく作為義務の有無が問題となる。
規範
不作為による放火罪が成立するためには、作為義務の存在とその義務に違反する不作為が必要である。自己の失火(過失行為)により物件を燃焼させた者は、先行行為に基づき、火勢が建物に延焼することを防止すべき作為義務を負う。この義務に反し、延焼を予見・認容しながら、容易に採りうる消火措置を講じない不作為は、作為による放火と同視し得る実行行為性を有する。
重要事実
被告人は、営業所事務室の木製机の下に、大量の炭火が入った火鉢を放置するという重大な過失により、周囲の原符や机に引火・延焼させた。仮睡から覚めた被告人は、火勢が建物に延焼し焼燬するに至ることを認識しながら、自己の失策発覚を恐れる等の理由から、容易に消火や協力要請が可能な状態であったにもかかわらず、何ら措置を講じずに現場を立ち去った。その結果、営業所建物及び現住家屋6棟が焼燬した。
あてはめ
被告人は重過失によって火災を発生させた先行行為者であり、建物への延焼を防止すべき法的義務を負う。事実関係によれば、被告人は火災発見時、自ら消火するか宿直員に協力を求めれば容易に消火し得た。しかし、被告人は建物が焼燬することを認容しながら、あえて義務である消火措置を講じなかった。この不作為は、既発の火力を利用して建物を焼燬させる行為と評価でき、作為による放火と同等の法益侵害性を有する。
結論
被告人の不作為は刑法108条の放火罪に該当し、不作為による現住建造物等放火罪が成立する。
実務上の射程
不真正不作為犯の成立要件(作為義務、作為の可能性・容易性、作為との同価値性)を論じる際のリーディングケースである。特に先行行為(過失)が作為義務の発生根拠となる点、および消火が「容易」であった事実から実行行為性を認めた点が答案作成上のポイントとなる。
事件番号: 昭和28(あ)5153 / 裁判年月日: 昭和30年11月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共犯者のみが居住する建造物であっても、その実態からみて他の居住者が存在する場合には現住建造物放火罪が成立し、控訴審に判断遺脱の違法があっても、当該主張自体に理由がない場合は判決に影響を及ぼさず、破棄事由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人Bは、妻Cらと居住する住宅、および弟が起居する工場・作…