刑法第一五六条は信用度の高い公文書の無形偽造を私文書と異つて特に処罰することにしたものであつて、その保護法益は公文書の信用性に存し、行為者が公務員であるか否かによつてその保護に軽重を設けた規定ではない
刑法第一五六条の法意
刑法156条,憲法14条
判旨
刑法156条(虚偽公文書作成罪)が公文書の無形偽造を私文書と異なり処罰する点は、公文書の高度な信用性を保護する趣旨であり、憲法14条に違反しない。
問題の所在(論点)
刑法156条が、私文書の無形偽造を原則として不処罰とする一方で、公文書の無形偽造を広く処罰の対象としている点が、憲法14条の法の下の平等に反しないか。
規範
刑法156条の保護法益は「公文書の信用性」にある。同条が公文書の無形偽造を私文書と異なり特に処罰対象としているのは、私文書に比して信用度の高い公文書の真正を確保するためである。これは行為者が公務員であるか否かによって差を設けるものではなく、文書自体の公共的性質に着目した合理的区別である。
重要事実
被告人らは、公文書の無形偽造(虚偽公文書作成罪、刑法156条)に問われた。これに対し、弁護人は、私文書の無形偽造(虚偽診断書作成罪等を除く)が原則として罰せられないこととの比較において、公文書の無形偽造を処罰する刑法156条は、法の下の平等を定めた憲法14条に違反するものであると主張して上告した。
あてはめ
刑法156条の規定は、公文書が社会生活において有する極めて高い証明力と信用性を保護することを目的としている。私文書に比べ、公文書はその内容が真実であることを信頼されるべき公共的な機能を有している。したがって、無形偽造(内容虚偽の記載)を処罰してその信用を維持することは、保護法益の重要性に照らして合理的な根拠がある。これは作成権限を有する公務員等の身分のみに着目した差別ではなく、公文書そのものの重要性に基づく区別であるといえる。
結論
刑法156条は憲法14条に違反しない。したがって、被告人らの上告は棄却されるべきである。
実務上の射程
虚偽公文書作成罪の保護法益が「公文書の信用性」にあることを明確にした。答案上は、公文書偽造罪全般の保護法益(社会的公共的信用)を論じる際の根拠として活用できるほか、公務員でない者が関与した場合の身分犯の成否(刑法65条)を論じる前提となる保護法益論の補強に資する。
事件番号: 昭和35(あ)74 / 裁判年月日: 昭和38年5月24日 / 結論: 棄却
一 外貨買取済証明書を他から買受けてその外貨の枠を利用して輸出する、所論のいわゆる枠積輸出は標準決済方法による適法な輸出であると認めることはできない。 二 外国為替及び外国貿易管理法第六九条第三項は憲法第一四条に違反しないことは、当裁判所の屡次の判例(昭和二五年(あ)第三二六九号、同二八年六月二四日大法廷判決、集七巻六…
事件番号: 昭和30(あ)3708 / 裁判年月日: 昭和33年4月11日 / 結論: 棄却
村長がその名義の内容虚偽の公文書を作成した場合は、それが専ら第三者の利をはかる等不法な意思に出でその職務権限の乱用と認められる場合であつても、刑法第一五六条の罪が成立し、同法第一五五条の罪が成立するものではない
事件番号: 昭和26(し)28 / 裁判年月日: 昭和26年5月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法14条は、人種、信条、性別、社会的身分又は門地に基づく不当な差別を禁じるものであり、不利益な待遇の理由がこれら列記事由に当たらない場合は、同条違反の問題を生じない。 第1 事案の概要:被告人が法定の期間内に控訴趣意書を提出しなかったため、控訴棄却の決定を受けた。これに対し、被告人は、期間内に提…
事件番号: 昭和31(あ)153 / 裁判年月日: 昭和31年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】虚偽公文書作成罪(刑法156条)の客体である「公務員がその職務に関し作成すべき文書」とは、公務員が職務権限に基づき作成する文書全般を指し、その内容や形式は限定されない。 第1 事案の概要:被告人が関与した特定の文書(本件文書)について、これが刑法156条に規定される「公務員の職務に関する文書」に該…