出所不明のアルコールを主原料として酒類を密造するにあたり、かようなアルコールは所謂メチルアルコールである場合があるから、先ずその成分を確認し、法定量(一立法糎中一ミリグラム以下)を超えるメタノールを含有することのないように注意を払うべき義務あるにも拘らず、之を怠り、右アルコールに水を加え、ブドー糖、味の素、琥珀酸、乳酸等を混入、濾過し、アルコール分一三、七度以上で、法定量を超えるメタノールを含有する酒精飲料を製造した所為は、一個の行為にして、同時に旧酒税法第六〇条第一項の無免許酒類製造の罪と過失による有毒飲食物等取締令第一条違反の罪にあたる。
無免許酒類製造の罪と過失による有毒飲食物等取締令第一条違反の罪とが概念的競合の関係にある場合
刑法54条1項前段,旧酒税法(昭和15年法律35号)14条,旧酒税法(昭和15年法律35号)60条1項,有毒飲食物等取締令1条,有毒飲食物等取締令4条,厚生省関係法令の整理に関する法律(昭和29年法律第136号)1条2号,厚生省関係法令の整理に関する法律(昭和29年法律第136号)附則4項,食品衛生法4条2号,食品衛生法30条
判旨
酒税法違反の罪と有毒飲食物等取締令違反の罪が一個の行為によって行われた場合、両罪は吸収関係に立たず、刑法54条1項前段の観念的競合となる。
問題の所在(論点)
一個の行為によって酒税法違反と有毒飲食物等取締令違反の双方が成立する場合、両罪の関係は吸収関係となるか、あるいは刑法54条1項前段の観念的競合となるか。
規範
一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合、各罪が保護する法益や構成要件の性質に照らし、一方が他方に包含される関係(吸収関係)にない限り、刑法54条1項前段により観念的競合として処理すべきである。
重要事実
被告人は、一個の行為により酒税法に違反する行為および有毒飲食物等取締令に違反する行為(有毒な飲食物等の販売等)を行った。弁護人は、有毒飲食物等取締令違反の罪は酒税法違反の罪に吸収されるべきであり、別罪を構成しないと主張して上告した。
事件番号: 昭和25(れ)1160 / 裁判年月日: 昭和25年11月17日 / 結論: 棄却
食糧管理法旧第三一条違反と酒税法旧第六〇条第一項違反とは牽連犯の関係に立たない。
あてはめ
酒税法は酒税の適正な賦課徴収を目的とするのに対し、有毒飲食物等取締令は公衆衛生の維持・国民の生命身体の安全を目的とする。このように保護法益を異にする両罪において、一方が他方の当然の帰結として含まれる関係にはない。したがって、一個の行為によりこれらの罪名に触れる場合は、観念的競合と解するのが正当である。本件において、第一審が両罪の成立を認め、刑法54条1項前段を適用した判断に誤りはない。
結論
本件行為は酒税法違反と有毒飲食物等取締令違反の観念的競合となり、後者が前者に吸収されることはない。
実務上の射程
罪数判断において、特別法同士が競合する場合の処理を示す。保護法益や構成要件の目的が異なる場合には、安易に吸収関係(法条競合)を認めず、観念的競合として処理すべきという実務上の指針となる。
事件番号: 昭和30(あ)1768 / 裁判年月日: 昭和32年7月23日 / 結論: 棄却
所論は、原判示第一の(一)の焼酎製造は、第一の(二)の雑酒製造の目的をもつてなされたものであるから、第一の(二)の雑酒製造の一過程としてその事実に含まれ、包括一罪として処断されるべきであるのに、原審がこれを併合罪として処断したことは、同一犯罪に重ねて有罪の判決をしたものであり、憲法三九条に違反すると主張する。しかし、原…